まずいよ!勝己さん!!

□苦手克服(1)〜針谷編〜
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「……針谷。今日、どうだった?」

「ん〜…」


日曜日。
志波と二人で、苦手なものを克服する会……略してニガコクの活動をした。

今はその帰り道だ。

「まだまだって感じだったけど……まぁ、最初の頃よりはマシになったんじゃねぇ?ちょっとは」

「……そうか」

そう答えてはみたけど、実際は、大して克服できてない。

ため息をついたオレに志波は少し、口元で笑った。
それから学生や仕事帰りのサラリーマンでごった返すはばたき駅に目をやって、呟く。

「やけに混んでるな…」

「あ?……まぁ夕方だしな。帰宅ラッシュってやつ?」

「帰宅ラッシュ……」

「満員電車って苦手なんだよな、オレ。電車通学じゃなくてマジでよかった〜」

「……針谷」

「あ?」

「ニガコクだ。帰宅ラッシュの電車に乗ろう」

「はっ?……な、何でそーなるんだよ!別に、満員電車なんか克服する必要ねぇだろ!」

「いや……」

志波は、いきなり挑戦的な目をすると力を込めてオレの腕を握った。

「……ニガコクだ。針谷。逃げるのか?」

「うっ……」

逃げるのか、なんて問われれば……このハリー様が引くわけにはいかない。

「わ……わかったって!行きゃいいんだろ!とりあえず、その、手ぇ離せ!」

「ああ……」


微かに笑った志波の目が、一瞬、不自然なくらいギラついて見えたけど……


「……?ほら、行くぞ!オマエの方こそ、人混みに酔ってフラフラになってもしんねーからな!」

「ああ。……針谷のほうこそ、きっとフラフラになるぞ」

「うるせー」


……それはほんの一瞬だったから、オレはきっと気のせいだと思って。

そのまま二人で、はばたき駅へ歩き出した。
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