まずいよ!勝己さん!!
□珊瑚礁で(3)〜佐伯編〜
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「何でだよっ!」
思わずテーブルを叩いて立ち上がり、俺は爺さんの顔を睨みつけた。
「じいちゃんだって、あんなに頑張ってきたじゃんかよ!俺、納得できないよっ!」
「……もう決めたことだ。瑛。この店は今夜でおしまい。いいね?」
「ッ……!」
一年のとき珊瑚礁のバイトで入ってきた志波が、三年になって急にバイトを辞めた。
本当に突然だった。
志波と爺さんは志波が入ってきたときからずっとラブラブだったし、二人の関係にまずいところなんて一つもなかったし、マスターラテの売上も伸びていた。
それなのに、その矢先だった。
志波がバイトを辞めた。
そしてたったそれだけを理由に、珊瑚礁の未来は、唐突に閉ざされた。
「聞きなさい。瑛…」
志波がいなくなり……
傷心した爺さんが、もう珊瑚礁を閉めると言い出したのは、そう遅くなかった。
「珊瑚礁にはカツミンと私の思い出が溢れてる…。私にはもう、カツミンのいない珊瑚礁でコーヒーをいれるのはつらすぎるんだ…。だからもう、珊瑚礁は終わりだ」
「そんなっ…!」
(……珊瑚礁を閉める?志波がいなくなったから?たったそれだけの理由で?)
……爺さんはきっと、志波に本気だったんだ。
志波はバイトを辞めたのと同時に、爺さんからの一切の連絡を絶った。
結局、爺さんは志波に遊ばれていたのだと思う。
爺さんがショックを受けていることに、俺だって気付かないわけじゃなかった。
傍目から見ても、爺さんの傷付きようは痛いほどだった。
しっかりしてもらおうと思い、俺は励ましたけど、爺さんは立ち直らなかった。
しかも、志波が辞めたことによる問題は“マスターが失恋で傷心”という心の問題だけじゃなかった。
志波がバイトに来なくなったせいで、珊瑚礁の看板メニュー。
マスターラテの精製が困難になった。
志波が辞めた後でも、マスターラテを注文してくる客は相変わらずいたから、俺は爺さんに志波がいなくても何とかしてミルクを作るようにと強制していた。
でも、爺さんは失恋の痛手も手伝ってなのか“やっぱり一人では無理だ”とうなだれるだけで、どんなに俺が無理強いしようとミルクを作ってくれなかった。
しかも、俺がミルクを出せと咎めれば咎めるほど逆効果の様子で、最終的に爺さんは、客の目もはばからずに床に泣き崩れる始末だった。
……俺だって気付いてた。
珊瑚礁の存続は、確かに難しい状況下にあった。