NightMare
□囚人〜針谷編〜
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「ミナサン、お待たせ〜」
相変わらずの柔らかい笑みを浮かべて、クリスが顔を出した。
「お待ちかねのショータクンの登場やでぇ」
言いながら、クリスはドアの向こう側から何かを強引に引っ張った。
腕を掴まれた天地が、奥の部屋から引きずり出されてくる。
「クリス先輩!痛いっ……」
「早う、こっちやって!」
(……アレ?)
変な違和感があった。
クリスに無理やり引っ張られてきた天地の姿が、記憶の中のイメージと違う。
なんつーか…、妙に色っぽい。気がする。
記憶の中にある天地っつったら、一番は目を引くほどにずば抜けた童顔だ。それから同情してやりたくなるくらい未成熟な体つき。
廊下でチラッとすれ違うたびに、中学生みてーだなって思ってた。まだまだ全然ガキっていうか。
それが、なんか違う。
微妙に大人びた横顔。短い襟足から見え隠れする首筋は、ほんのり赤く染まって見えた。
切なげな表情でちらっとこっちを流し見た瞳は、物欲しそうにとろんと潤んでる。
(……なんか、すでにエロいコトしまくってたみたいな顔。)
ちなみに目を引いたのは表情だけじゃない。
天地が着てたのは、明らかにサイズの合ってない青いシャツだけで。お泊りにきた彼女的なアレ。
佐伯も氷上も言葉をなくしてる。
「ほーら。みんなにカワイクご挨拶せな」
耳元で囁いたクリスの吐息を煩わしそうに交わして、天地は眉を潜めた。
「どうして……こんなに、揃ってるんですか…」
「ん?人数のコト?だってな、ショータクンのカラダ、エッチすぎるから一人ずつやったら満足できへんやろ〜?みんなで一緒に可愛がってあげた方がええやろなぁと思うて」
「ムリに…、決まってるじゃないですかっ…」
「ムリなことあらへんって!キミやったらよゆーやわ」
ニコニコしながら、クリスは天地を背後から抱きしめた。
「“いい子”にしてるって約束、忘れたらあかんよ?」
「だ、だけどこんなの聞いてないし!志波先輩がこの人たちにそーいうコトをしたって、僕はまだ信じたわけじゃなくてっ……だからっ……」
まだ混乱した様子の天地の前に腕を回し、クリスはシャツのボタンを上から三つくらい外して、そこからするりと手を滑り込ませた。
「やっ!こんなのやだっ!……助けて!誰か!助けて下さい!」
クリスが自分の胸をまさぐり出して、天地は慌ててオレたちを見上げた。
すがるような声で、哀願する。
「お願いっ……助けて下さい!クリス先輩が、おかしいんですッ……」
「………」
(その時オレは、もしかしたら佐伯は止めに入るかもって思ったりもしたんだけど……)
「……その服さ。俺、そういうのすごく、なんていうか、その……好き…」
「………」
(コイツ。なんか言ってる…)
しばらくの間、天地はオレたちに向かって必死に「助けて」を繰り返していたけど、そのうち誰も自分を助けないことに気が付くと、急に静かになってオレたちから目を背けた。
天地は、クリスに何か弱みでも握られているのか、ろくに抵抗しないでじっと堪えている。
けど、その伏せた瞳には、羞恥と共に怒りのようなものが感じられた。
「ショータクン、みんなに見られるのスキ?」
「……ぃ、やだ…」
「アレ?イヤなん?……ショータクン。嘘ついたらあかんよ?」
しつこく愛撫され、シャツの上からでもフツーにわかるくらい勃ちあがってきた乳首の場所を、指先で執拗に揉み込まれ、押し潰されて、天地は腰をピクッとくねらせる。
「ゃっ、やめて…、もうっ…」
「嘘はあかんて。“いい子”にしてるって約束したはずやろ?乳首クリクリされてるとこ、みんなに見てもらって気持ちがええの?んん?どないなん?」
「っ、ぅっ……もっ、いやだっ!……離せよっ!」
「あ」
オレたちの視線の中で、されるがままになっていた天地は、あるとき唐突にクリスの腕を振り切った。
誰の顔も見ずに、助けなんて一言も求めずに。ただこの場から逃げ出そうと、オレたちの側を擦り抜けて、そいつは玄関へ走った。
そのとき、誰かが何か言ったわけじゃない。
静寂の中で薄い氷が割れるような、ほんのわずかな異変がオレたちの中で起きた。