執事
□雨よ止まないで。
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薄暗い雨の降る空の下
私はあの人を見つけました。
雨 よ
止 ま な い で 。
梅雨の時期、私は傘をさして灰色の空の下を立ち尽くしていた。
雨、雨、雨。
全ての音が雨。
全ての色彩が雨。
なんて綺麗な景色。
そんなことを考えていると、どこからか雨以外の音が聞こえてきた。
不快に思い、その音の元を探す。
すると、一人。
ぽつんと、この雨の中傘もささずに空を見上げている人物がいた。
死んでいるのかと思う位、その人は微動だにしなかった。
その時、風が吹いて傘を落としてしまった。
私が落とした傘を拾って、顔を上げるとその人は消えていた。
その人は、明くる日も明くる日も、灰色の空を雨の中見上げていた。
それから数日経ったある日
久々の快晴になった。
あの人はいるか、と無意識に探す、が、いなかった。
雨。
あの人は、雨の日だけ現れて空を見上げている。
もうすぐで、梅雨も終わってしまう。
多分、今日が最後の雨だろう。
あの人は、いた。
これで18回目。
私は、勇気を振り絞って話しかけた。
あの人は、静かに応えた。
「葬儀屋と呼んでおくれ」
雨が止めば、もう会えないと思ったから。
END。