捧物

□桜。
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それは、出逢いの季節であり

別れの季節でもあるの。







「な、……今、何て…?」

「小生は、死神を辞めるんだよ……って」

死神図書館前空中楽園。
乾いた空気の中
突然、アンタに呼び出されて、コレよ。


「どうして…?」

「飽きたんだ。それと、疲れたんだよ。最上位の死神というだけで、潰れそうな位の圧力と仕事」

アンタは髪を弄りながら言った。

「でも、そんないきなり辞めなくったって……」

「小生には、この仕事は合わなかったみたいだねぇ」

アタシは、目から溢れそうな涙を必死で堪えた。

「ヒッヒッ……泣かないでおくれよ。キミの涙はどうも苦手でね」

アンタは自分の服の袖で、アタシの目元を拭ってくれた。

「な、泣いてないワ」

アタシは、急に恥ずかしくなった。

「ありがとう。」

「は……?」

いきなり、ありがとう、なんて言われた。

「何が……?」

「小生のために、泣いてくれてありがとう」

アンタはまた、あの独特の声で笑いながら、アタシを優しく抱き締めてくれた。
そしてそのまま頭をなでてくれた。

「名前………」

アタシはアンタの名前を知らない。

「名前を教えて」

「名前かぁ…」

「それと、死神を辞めて何をするのかも」

アンタは眼鏡を外しながら言った。

「地上の英国で、店を開こうかと思うんだ」

「店?」

そしてアンタはその眼鏡を落として踏みつけた。
ガシャッっという、綺麗で痛い気な音が響いた。

「初めてキミをレンズ越しじゃないまま見たよ。綺麗な髪だねぇ」

「ありがとう」

「……小生の事は」

それだけ言うとアンタは微笑んだ。




「葬儀屋と呼んでおくれ」




「葬…儀屋……」

「あぁ、店は葬儀屋にしようと思うんだ」

「相変わらず悪趣味ね」

「ヒッヒッ……店は英国のロンドンに構えるよ。気が向いたら会いに来てくれるかい?」

アタシは思わず顔が緩んだ。

「もちろんよ」

「ありがとう」

アンタはまたアタシを抱き締めて、額に一つ。キスを落として言った。

「さようなら。また逢う日まで」




「…―――グレル」




「さようなら。また逢う日まで、葬儀屋……」



アンタはそう言うと、アタシの前から姿を消した。

アタシは泣き崩れ、一息ついて空を見上げた。





「必ず会いに行くワ……葬儀屋…」


葬儀屋の去った後には、綺麗な桃色の花びらが舞っていた。



END。

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