11/09の日記
16:35
きめつ岩夢
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デフォ名桜
kmt岩さん夢
その日はいつもより嫌な空気の日だった。
行冥さんが、日用品を買いに行くときの財布を手に首をかしげていた。
どうしたんですか、と声をかけると、
「ああ、桜か。いや、どうも財布の中身が少なくなっている気がしてな。いつもと同じ数だけ買ったきていたはずなのだが、手違いでもあっただろうか…」
と少し眉をひそめながら答えてくれた。
その言葉に、手を繋いでいた晶が少し反応する。
「晶?」
「…んーん、なんでもない!ぎょうめいさん、お金ないのこまる?」
「ん?そうだな、皆の飯や服を繕う糸が買えなくなってしまうからなあ…御寄進もあろうが、あまり期待はできぬ」
「そっか」
そういうと、手を離して晶は走って行ってしまった。
なにか思うところがあったのだろう。それか、他の子になにか聞きに行ったのかもしれない。
晶の挙動に行冥さんと首を傾げあってから、もう一度金を確かめようと提案した。
行冥さんは少し笑って、手伝ってくれと言ってくれた。
その夜だった。
がさがさと、藪の中で音がする。
猪か何かが降りてきてしまったのかと思い、怖がる沙代と一緒に行冥さんを探す。護身用の手斧を渡すためと、姿が見えないと思っていた獪岳を、子どもたちが追い出してしまっていたことをようやく聞き出せたので、それを伝えるためだった。
──夜になると鬼が出るという迷信がこの地には根付いている。
鬼は藤の花を嫌っており、その香りも鬼除けになると、寺にはいたるところに藤の香が焚き染められているのだが、今夜はなぜだかその香りが薄い気がした。
いつもより夜の匂いが濃い廊下は、なにか嫌な予感がする。胃の腑からなにかがこみ上げてくるような、ざわざわと落ち着かない体を抑えて、沙代を連れて早足に歩く。
お堂の中に行冥さんはいた。
「行冥さん、あの、獪岳が…」
「桜、待て、何かが来ている。念のため皆をお堂に集めてくれ」
「は、はい…」
険しい顔をした行冥さんは私たちに向くことなく、数珠を鳴らしながら指示をする。
沙代に行冥さんのそばにいるよう言い含め、他の子どもたちを呼びに行く。
藪の中の音は止んでいない。
子どもたち…獪岳以外のすべての子供たちを集め、お堂に入る。
「皆そろったな。何かが藪の中に居るようだ。おそらくは猪か何かだろうが、念のためみなここにいなさい。獪岳は具合が悪いと言っていたが、大丈夫か?」
行冥さんが険しい顔のまま言う。
「あの、それなんですが、獪岳はみんなが追い出してしまったと…」
「なに?なぜそんなことを…」
告げた言葉にみな顔を伏せ、行冥さんはさらに眉を顰めて言い募ろうととした時だった。
大きな音とともに、お堂の扉が破壊された。扉の先からは恐ろしい形相をした人のようなものが立っている。
大きな音に驚き、またその形相と漂ってきた血臭に子どもたちは悲鳴を上げ、仏像の裏手にある扉へと我先に駆け出していく。
「待て!みな落ち着け!私の後ろに隠れろ!!」
行冥さんは手斧を持ち、その大きな体躯を目いっぱいに広げ、私たちを守ろうとしてくれた。
しかしその大声に興奮したのか、その人のようなものは大きく飛びあがり、逃げ出した子どもたちへと襲い掛かった。
子どもたちの悲鳴、そして一気に濃くなった血の臭いに、沙代が涙を流し大きく叫んだ。
沙代の小さな体を抱きしめながら、行冥さんの陰で小さく震える他はなかった。
行冥さんが叫ぶ。続いてなにかがぶつかるような音、聞きなれない苦悶の声。何が起きているかなど目を瞑っていてもわかるほどに凄惨な音が、血の匂いがあたりに充満した。
どれほどの時が過ぎただろう。ただただ紗代を抱きしめ背をさすり、がたがたと震えるだけだったが、突然音が止んだ。
自分の心臓の音と紗代のすすり泣く声、そして行冥さんの荒い息の音だけが鼓膜を叩く。うっすらと目を開けると、血まみれの行冥さんが朝日に照らされていた。
その姿に恐怖を覚えなかったといえば、嘘になる。しかしそれ以上にもうあの化け物はいないのだという安堵から涙が溢れてやまなかった。
行冥さん、行冥さんと歯の根も合わない口で、赤子のように泣きながら呼ぶ私はひどく滑稽だったと思う。
そこらを染め上げる暗い赤が、耳にこびりつく苦悶の声が今までの惨劇が現実であると知らしめていた。
そうしているうちに、誰が呼んだのだろうか、警官が駆けてきた。
警官たちは辺りの惨状に顔を青褪めさせた。その中の一人が、震える手で行冥さんの腕を無遠慮に掴み、そして叫ぶように言った。
「これはお前がやったんだな!?」
一瞬、なにを言っているのかわからなかった。
溢れていた涙が途切れ、目を見開く私の背を、もう一人の警官が優しく撫でる。
「怖かったろう…ああこんな幼子まで…」
未だ私の着物を掴んで泣いている沙代の頭にも手を伸ばして撫でるその手は、確かに優しさであふれていた。
しかし、違う、違うと小さく声をあげる私をその優しさで封じ込め、哀れみの目で見つめる警官はまるで人ではないように思えた。
「あの、人がやったの!、う、みんな、みんな、」
私の着物に顔を埋めているせいかくぐもる声で、沙代までもが行冥さんを責めるようなことを口走る。
嗚咽を漏らしながら、途切れ途切れに、それでもあの人がやった、みんな死んでしまったと告げる沙代。それを見てもういい、と一言言って、私たちを撫でたその手で、私たちを守った行冥さんの腕に縄をかけようとする警官。
「ッ違う!!」
耐え切れずに叫んだ。その声に、警官たちの言葉に涙を流すだけだった行冥さんがはじかれたように顔をあげた。
「違う!行冥さんは私たちを助けてくれたの!!ッ変な男が突然現れて、みんな、逃げようとした子供たちが襲われて…ッ!!」
警官たちは眉を顰め、お互いに顔を合わせる。
「行冥さんは私たちを助けてくれたの!!ねえ沙代、違うでしょう?あの人って、行冥さんじゃないでしょう!!ねえ、紗代!行冥さんは私たちを助けてくれたのよ…!?あんな、命がけで、額に傷まで負って!沙代、違うと言って、お願い、警官さんにきちんと説明をしてあげて!!ねえ、ねえ…沙代…!」
がくがくと、泣いている幼い子供をゆすり、泣きながら懇願する私はよほど鬼気迫っていたのだろう。錯乱している、と警官は私と沙代を引きはがした。そして行冥さんとともに歩きだしてしまった。
違う、違うと泣き叫びながら追いかけようとしたけれど、もう一人の警官に抑えられ、それも叶わなかった。
行冥さん、行冥さんと泣いて叫んで、声を嗄らせても警官は離してはくれなかった。そのうちに体力が限界に達し、へたりこんですすり泣く私に、優しく語りかけてくる。
「かわいそうに、今まで共に暮らしてきた坊主が凶悪な男だと信じたくない気持ちもわかる。今は休みなさい。寺にいたということは身寄りもないだろう、子供を受け入れているところを探そう」
私が狂っているのだと、そう突き付けてくる言葉にまた涙が溢れる。咽喉が焼け付くようで、行冥さんを凶悪な殺人者に仕立て上げた警官への口惜しさと、それを覆せなかった自分に腹が煮えくり返る。遣る方のない熱量を胃の腑に無理やり抑え込み、私は黙り込んだ。
それきりなにも話さなくなった私を立たせて、沙代の手を引いて警官は歩き出した。
警官は優しかった。時々やるせない視線を沙代に向けてしまう私を見て、沙代を早くに違う寺へと引き渡した。私の頭を撫でて、つらいよな、と語りかけた。
てんで的外れなことだと、話されるたびに私の顔は固くなり、警官を薄くにらみつけてしまっていたが、それでも彼は辛抱強く私に接してくれた。
行冥さんの処刑決定を私に教えなかったのも、きっと彼なりの優しさだったのだろう。
しかし、それを聞いた私の熱は限界を超え、着の身着のままで飛び出してしまった。
刑を待つ犯罪者を置いておく施設の詰め所前で、荒く息を吐きながら押し入ろうとすると、後ろから声をかけられた。
「もし、君はひょっとして悲鳴嶼行冥さんの知り合いかい」
久しぶりに聞いた名(警官は気を使ってか行冥さんの名は決して出そうとしなかったのだ)に、勢いよく振り返ると、穏やかな顔をした少年と目があった。
「ああ、やはり…君が、彼の無罪を主張していたという少女だね」
聞いているだけで、荒れていた気持ちが凪いでいくような声だった。
同い年か少し年下くらい背格好をしたその少年は、その調子のまま、穏やかに話しかけてきた。
「私も彼が凶悪な犯罪者だとは思っていない。ちょうど彼の処刑を止めるために、ここの詰め所に来たところなんだ」
は、と息を吐く。
彼は今、なんと?
「もし君が今も彼の無罪を信じているのなら、少しここで待っていてくれると私もありがたい。彼のことは私がどうにかするから、どうか信じて待っていてほしい」
少しの微笑みをたたえて私に告げる姿に、いつか寺で見た菩薩を重ねる。
後から考えると、飛び出したことといい、彼をすぐに信じ込み待っていたことといい、些か以上に思慮に欠けていたと思う。
しかし彼の言には不思議と信用が置けて、そこで待っていることを了承してしまったのだ。
「ありがとう。…ああ、申し遅れたね、私は産屋敷輝哉。君にも後で話を聞きたいんだけれど、いいかな」
うぶやしきさん、と口の中で転がし、自分も名前を告げる。
もちろん、と了承した私に少し笑って、産屋敷さんは詰め所へと入っていった。
しばらく待っていると、そこにあの警官が息を切らせてやってきた。
そういえば、飛び出してしまっていたと思い返す。
「桜ちゃん、ここは、その、」
「…飛び出してごめんなさい」
まず私の安否を確かめるその人に、あの日からずっと私を思いやってくれていた優しさを見る。
未だに行冥さんを誤解していると彼を責め、優しさに甘えているくせに頑なになっていた自分を恥じ、頭を下げた。
産屋敷さんと話してから、妙に心が凪いでいる。頭が冷えたというのか、今までの行動を思い返しては顔が熱くなってしまった。
きちんと彼の目を見て頭を下げる私に、警官は目を白黒させながら言う。
「え?いや、大丈夫だ。その…彼のことを聞いてしまったんだろう」
突然飛び出した私を責めるでもなく、彼はとても穏やかに私を慰める。飛び出した私に慌ててはいたが、おとなしく詰め所の前で待っていたことに安心したのだろう。
帰ろう、と手を差し出す彼に首を振り、ここで別れることを告げた。
「どうしたんだい?ここでお別れといっても…桜ちゃん、君に行くところはないだろう」
「いいえ、行くところはあります。今さっき、できました」
そう言うと彼はますます首を傾げた。
優しさにようやく気付いて、それを受け取れるまでには落ち着いた。しかし、今の私には絶対に行かなければならない、そこで暮らさねばならないところがあった。
それを言うと、彼は少し不満げにしながらも私を尊重してくれた。
最後まで、優しい良い人だった。恩を返せないのは口惜しいが、私の大好きな人を最後まで疑っていたのでトントンだ、と笑った。
「行冥、君に会いたいという人がいるんだ」
「私に?」
「ああ。入っておいで」
「失礼します」
「…! …桜…?」
「…ッ。 はい。はい…!桜です…!行冥さん…!」
その後幸せなキスはしないけど岩柱の屋敷の一切を取り仕切り事実婚状態で岩柱の内縁の妻という認識をばらまき外堀を埋める桜ちゃんで〜fin〜
坊さんだし結婚はたぶんしないけど子供は生まれるといいね!
桜はデフォ名です
行冥さんかっこよすぎるので&不憫すぎるので結果的に世間のすべては行冥さんを疑ったし子供不信になるのは変わらないけど(お館様を除いて)唯一の理解者を得る行冥さんの話。
子ども不信にならないかっていうと桜ちゃんはこの時点で13歳で行冥さんとそこまで年が変わらないからです。原作時点で15歳の炭治郎も子ども扱いだった?こまけえこたあいいんだよ!!!!
沙代ちゃんが言ってたあの人が鬼っていうのは桜も知らないです。そうだといってよ!!!って希望的観測を(桜ちゃん視点で)申しているだけ。結局行冥さんはひっとらえられて処刑目前まで行ってしまったので沙代ちゃんは後悔しっぱなし。ごめんな…。
あっあと晶くんはオリジナル子供です
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