シリーズもの

□プロローグ
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え、ちょっとまて、何だこの王道すぎる展開は。

あ、わたしの名前は          !
花も恥じらう女子中学生!

あ、痛い。
自分が痛い。
ていうか脳内変換で鼻も恥じらうって出た。
なんだ鼻が恥じらうって。
いや!見ないで!鼻くそいっぱいあるから!ってか。
そら恥じらうわ。
ちなみに目くそは目やに、耳くそは耳垢って呼ぶのが正式らしいけど、鼻くそにはそういう呼び方が無いんだよ!
つまり鼻くそが正式名称ってことだね!
きったねえ上に使えない雑学が増えたね!

くそくそいっぱい言ってるけど、私は本当に女子中学生だ。
なんというか、少女マンガとかは女子中学生や女子高生に夢見すぎだと思う。
ほとんどの作者が女性なのに。

どうでもいい。

私の手の中には、何の変哲もない、某有名ゲームメーカーが発売した折りたためる携帯ゲーム機(水色)があった。
電源もついている。
ゲーム画面は黒い背景に、『あなたの名前は?』と書かれた白いダイアログ。

…………何のゲームだ。
乙ゲーにしては装飾が無さ過ぎた。
いつもはシンプルイズベストと公言してはばからない私だが、このシンプルさには警戒しか覚えられない。

夢小説かと、突っ込みたくなるような画面だった。
ありがちな、ゲームや漫画の世界に行ってみたーい、と願う少女の前に現れる謎の中古品店(骨董屋でも可)に売っている、これまた謎のゲームソフト。
そんな感じ。

画面を動かしたくない。

いや、それよりも、なんでこの画面になっているのだろう。
いつも入れてあるカセットは?
あのドンドコ太鼓をたたく音ゲーは!?

なにより、さっきから電源ボタンを押したり長押ししたりしているのに、電源が切れない。

……このまま放置して、電池が切れたらもとに戻るかしら。

はっ!
どうでもいいカセットなのだから、そのまま抜いてしまえばいいのでは!

と、思ったはいいものの。
どれだけスロットにある黒いカセットを押しても、引っこんでいかない。

―――え、本格的に壊れた?

怖すぎる。
捨てたい。
かといって、ゲーム機を壊れたという報告もなしに捨てれば母さんに叱られる。
ついでに、弟にも。
このゲーム機(水色)は弟と兼用しているのだ。
自分の買えよ。

閑話休題。

困った。
これはゲーム画面を進めろという神の思し召しか?
いや、仮にそうであったとしても、無神論者である私には何ら関係の無いこと。

……進めたら、電源も切れるようになるかな。
でも、取り返しのつかないことになったらどうしよう。

怖い。
ああ、こんなとき、自分の怖いもの見たさが嫌になる。
ガマンだ、ガマンしろ、私。
どこかの福音書にもあっただろ!
悪い誘惑に負けてはいけませんって!

―――しかし、人間というもの、いや、私という人間は、誘惑に非常に弱いものであった。
好奇心に勝てず、自分の名前――所詮、ニックネームというものを入力、そして決定を押してしまった。

覚悟していたような、いきなりゲーム機が爆発!などということは起きなかった。

先ほどと変わらない背景に、『性別は?』という白いダイアログ。
もうどうにでもなれ、という気持ちで、女を選択、決定を押す。

人間というものは、最初を恐れ、心配がいらないとわかると警戒を解いてしまう生き物である。
それがよかったからと言って、その他が安全などとは限らないのに。

『かみの色は?』
『ひとみの色は?』
『体重は?』
『身長は?』
『好きな色は?』
『好きな服そうは?』
『かみの長さは?』
『かみ形は?』
『年れいは?』

――およそ50はあろうかという質問にすべて答えた。
少しの脚色はあった。
いや、かなり。
きっと乙ゲーの類だろうと、先ほど思っていたことをころりと忘れ、安易に理想のものを入力した。
……私は、けっこう夢見がちな人間だった。

髪の色は黒。
瞳の色も黒。
年齢は現在の。

これは問題ない。

体重は自分の今の体重より5キロ低く。
身長は、あとちょっとというところで届かなかった、念願の160センチ代。
好きな色、好きな服装は正直に。
髪の長さは肩下20センチ。
髪形は、さらさらストレート。


……今の自分が、すこし嫌になった。


少し疲れてきたころ。
今までの画面とは対照的な、白い背景に黒いダイアログ。

ダイアログの中には、『どれにしますか?』という文字と、『G』『A』『SP』というコマンド。

どーれーにーしーよーうーかーな、などと言いながら、ひとつずつ指差していく。
いーうーとーおーり、で指が止まったのは、『SP』というコマンド。

SPはスペシャルの略であることが多い。
……スペシャルステージとか、そんな感じだろうか。
本当にこれでいいものかと、ゲームに関して下手の横好きを自称している私は悩んだが、指が画面に触れてしまったらしく、すでに画面は動いていた。

『では、行ってらっしゃいませ。もとには戻れませんので、あしからず』

その文字が見えた瞬間、私の意識は飛んでいた。


推理小説風に言うならこうだ。

今考えると、この私の短絡的な行動であんなことに巻き込まれたと言える。
なぜ、私は不思議に思わなかったのだろう。

こんなあからさまなものに、警戒心を抱かなかったのだろう。


よくある台詞―――
罪に気付くのは、全て終わった後。

私に置きかえると、過ちに気付くのは始まりが終わった後……。



自室が“あっち”と言えるようになってからでは、遅すぎた。







(あの時の自分を殴ってやりたい!)
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