シリーズもの

□ゴールド君と
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「すっごい雨……」

ざあざあ雨が降る。
折りたたみの傘を出しているけど、足元が結構濡れてしまっていた。

「どこかで土砂崩れとかが起きても、不思議じゃなさそうだなぁ」

ああ怖い。

そう思ってはいるものの、急ぐ気にはならなかった。
私には、アッシュがいるから。

野生のポケモンがけっこう出てきたから、アッシュも強くなっている。
もともとレベルは高かったみたいだけど。

「コラッタ!!」

「!?」

だれかわからないけど、男の子の声。
そのあとすぐに、ざぶんという水音が聞こえた。

「うわ!?」

さっきの声が、叫び声をあげた。

「だ、だれかぁ!!」

転ばないように、早歩きで声が聞こえた方へ向かう。
腰のボールの中では、アッシュが怪訝そうな顔で川を見つめていた。

「!」

そこには、男の子が落ちかけていて、エイパムが崖に生えた小さい木につかまって男の子を支えていた。

「アッシュ、助けてあげて!」

アッシュの動きは素早かった。
言い終わると同時に男の子とエイパムを背に乗せ、私の所まで戻ってきた。

「大丈夫?」

「は、はい……。って!あ、あの!もう一人川の中に、オイラのコラッタを助けに……!」


めまいがした。

これはまさしく、主人公くんのことじゃないか。






アッシュの背にのり、川をたどる。
滝の直前に、主人公くん……もとい、ゴールドくんがいた。

「アッシュ、ちょっと高度下げて!」

私のしたいことが分かったのか、アッシュは岸に寄ってから下がった。

アッシュの背から飛び降りて、指示を出す。

「アッシュ!その子を捕まえて、岸に!」

ゴールドくんの服をつかみ、岸に戻ってくるアッシュ。
彼のゴールドくんの扱いはひどく、べしゃりと地面に捨てた。

「だ、大丈夫? アッシュ、危ないでしょ!」

注意してみるも、知るかと言わんばかりにふいとそっぽを向かれてしまった。
いつの間にか、雨はやんでいた。





「バカモン!!」

ゴロウくん(名前を教えてもらった)と一緒に、オーキド博士がやってきた。
怒りとともに。

「なんて無茶をするんじゃ!彼女が通っていなかったら、どうなっていたことか!!」

「ま、まあまあ……彼の行動は、ゴロウくんのコラッタを助けるためでしたし……」

ゴールドくんに正座をさせ怒鳴りつける姿は、とても怖かった。
これが貫録というやつだろうか。
多分違う。


「む……。しかし、彼らのテントがぬかるみにはまったのも彼の無茶な特訓のせいじゃろう」

「うーん……」

少し、自業自得じゃないのかという気もしてきた。
でも、多分わき目も振らずにコラッタを助けようとして川に飛び込んだのだろう。
無謀だが、そこまで責められるものじゃないと思う。

「全部、強くなるためなんス!だから……この通りっス!図鑑を……ポケモン図鑑を、オレにください!!」

オーキド博士に土下座をして頼み込むゴールドくん。
土下座までされるとは思っていなかったのか、オーキド博士は眼を見開いて動揺していた。

「お、おい、顔をあげんか」

「いやっス!図鑑をもらうまでこのままでいるっス!」

頑固……。
その一言に尽きる行動だった。
しかし、オーキド博士はゴールドくんのそんな行動に思うところがあったのか、少し悩んでから、ゴールドくんの前に図鑑を出した。

「くれるんすか!? って、あれ」

「………一つ、質問だ」

嬉しそうにゴールドくんが図鑑に手を伸ばすも、オーキド博士は図鑑を引っ込める。

「『君にとって、ポケモンとはなにか!?』」

「!」

「かつて、ポケモンへの想いを『仲間』や『友達』と表現したトレーナーがいた」

オーキド博士は昔を懐かしむように、目を伏せた。

「君も、自分の言葉でポケモンへの想いを表現してくれないか」

「……………」

「さあ、答えてくれ」

「『友達』に『仲間』………。ううん、ちょっと違うなあ」

難しい顔で、ヒノアラシを抱き上げるゴールドくん。

「エーたろうはずっと一緒に住んでて家族みたいなもんスけど……バクたろうは、昨日ウツギ研究所で初めて会ったんスよ」

「…………」

「オレは犯人を捕まえたかったし、こいつは仲間を盗んだ犯人に怒ってた。だから、一緒に戦うことができたんス」

事情を知らない人間には厳しい会話内容だった。
話の腰を折るわけにもいかないので、黙って聞いているしかない。
私、ここにいる意味無いよね。

「もしこの先、新しいポケモンと出会っても、オレはポケモンと力を合わせていく、そんな関係でいたい。だから、ポケモンは相棒っス!」

強い瞳。
言い放ったゴールドくんは、とてもかっこよかった。

「同じ目的のために力を合わせて頑張る、オレの……パートナーっス!!」

同じく真剣な瞳で聞いていたオーキド博士は、ややあってからにこりと笑い、

「いい答えだ……。これを持っていくといい。特別じゃぞ!」

と言って、ゴールドくんに図鑑を渡した。

嬉しそうに笑ったかと思ったら、いきなりこっちを向いてゴールドくんは言った。

「で、あんたがオレを助けてくれたんスよね!」

「う、うん」

「……………」

「……?」

「惚れたっス!!」

「!?」

じぃっと見つめられてかと思うと、いきなり抱きしめられた。

「え、」

「ありがとうございました!んで、オレ今も言いましたけど、あんたに惚れました!オレはゴールド。お名前を教えてほしいです」

「あ……えと、ナナコ、です……」

「よろしく!」

「はあ……」

ぽかんとしてしまう。
それはオーキド博士たちも同じだったらしく、固まっていた。

「ちょちょちょ、なにしてるでやんすか!?」

「聞いてなかったのか?オレはナナコさんに惚れたんだって」

「いや、それはわかるけど!いや、やっぱりわからないでやんす!」

私もわからない。
誰かに説明してもらいたい。
なぜこうなったし。
いや、そうじゃない!

「いやいやいやいやいやいや!」

「なにがっスか?ナナコさん!」

「なにがじゃなくて……あーもう!」

どうしてこうなった!!

いっこうに離れてくれないゴールドくんは無邪気に笑っている。
認めたくはないが、可愛い。

「えっと、理解できないししたくないけど、ゴールドくんは私に惚れたと」

「はいっス!」

「で、私に何を求めているんですか!」

つい敬語になってしまった。
しかし、この状況でいつも通りの会話ができる人間がいたら見てみたい。
いいかげんオーキド博士とゴロウくんの視線が痛いんだけどな。

「オレと一緒に旅してくれねえっスか?」

「………いや、ほぼ初対面によくそんなこと言えるね、ゴールドくん」

「惚れたっスから!」

関係ない!
オーキド博士たちもそう思ってくれてる!はず!

ちらりと見てみれば、やはりというかなんというか、微妙な顔をしていた。

「……一緒に旅は無理」

「ええー!?」

「私は初対面と心安らかに旅をできるほど人間出来てないし、人間なれもしてないんだ。ごめんね」

「……………」

「うーん……ええと、ゴールドくんはどういう目的で旅をするの?」

「? この、バクたろうの仲間が盗まれちまったんス。そいつを助けるために、旅をするんスよ」

………うん、いや、知ってはいたが、もしかしてということもあったわけで。
そんな淡い期待はすでに打ち砕かれたのだけれど。

「そっか。 私は一応、ジムバッジ集めのために旅に出るの」

「そうなんスか」

「うん。ゴールドくんと私は目的が全く違うよね」

「……そうっスね」

「だから、一緒に旅ができるとは思えない」

一緒に旅をするのは、普通は目的が同じだったときのみ。
目的がてんで違う二人が旅をして、正直まともな旅になるとは思えない。
私は自分の目的そっちのけで他人の目的を優先できるほど優しくないし。

「……………」

ゴールドくんは不満そうだった。

「……もし、同じ町にいたら、その町にいる間だけ一緒に行動してあげるよ」

「……!」

「それで、いい?」

「もちろんっス!!」

とても笑顔が輝いていた。
現金だなあ。

「うん、じゃあそういうことで!」

脱兎のごとく、ゴールドくんの横を走り抜けた。

端的に言えば、逃げだした。


うん、もし同じ町にいたら、だから!
今から行動を共にするとはいってない。
日本語って、便利。




「あああああーっ逃げられたー!!」

「当然でやんす……」

「当然じゃ」





こんな会話は、私の関与するところではない。





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