シリーズもの

□照れ屋なさびしがり屋と
1ページ/1ページ







「キキョウシティ……」

のどか。
緑いっぱい。

田舎。


そんな言葉のよく似合う街、キキョウシティ。
ジムは休み。

……おいおい。

「よく考えたら、まだ後継のジムリーダー試験、行われてなかったんじゃ……」

アホすぎる。
このままジムが開くのを待つしかないけど、今は待っている暇はない。
というか、ゴールドくんが来てしまう。

ふーむ、まあしかたない。
電気タイプも氷タイプも岩タイプもいないことだし、ヒワダに行こう。
インセクトバッジを手に入れた後、ウバメの森でピカチュウを探そう。

「……仲間を増やして、ねえ」

増やすどころか、10分もとどまらなかった。
……ドンマイ。




「勝負だ!」

「………アッシュ、はがねのつばさ」

「ああっ、コラッタ!!」


……………


「勝負よ!」

「エアカッター」

「ニドちゃーん!!」


………………


「勝負!」

「みだれづき」

「トランセルぅぅ!」


………………………


「……アッシュ、大丈夫? 休もうか?」

連戦、連勝。

なんていうか、アッシュはすでにレベルが40に近いようだ。
はがねのつばさ、使いやすっ!
序盤でこの強さって……ほぼチートだろこれ……。

当人のアッシュは興味ナシと言わんばかりにつんとすましている。

「……まだまだいけると」

こくりと頷くのが見える。
いけるというのだから、いけるのだろう。

「まあ、サイコソーダとかもいっぱい買ったし、いいか」

いざ、くらやみのどうくつへ。



「ズバットよりゲンガーとかゴースとかのほうが出そうな雰囲気だよね、ここ」

ぴちょーん……ぴちょーん……と、雫の垂れる音が洞窟内に反響する。
わずかな明かりに光る、濡れた岩肌。
時折聞こえるポケモンの鳴き声と、羽ばたき。

………肝試しかっ!


こんなところでフラッシュを使えるポケモンがいないのと、ウイングバッチが無いのが響くとは。
盲点。
いや、ゲームだとここ明るかったよ……?

「ここでいきなり勝負とかしかけられたら私泣くぞ……」

流石にここは怖い。
アッシュがいるとは思うものの、会話もなく黙々と歩くって言うのは怖い。
お化けって小説とかでも大抵会話が無くなったときに出るんだよ!
怖いよ!

「お前トレーナーだな!?」

「うひぃっ!?」

「……いや、そんなに驚かなくても……」

声をかけてきたのは、登山家の人だった。
ここは山じゃないですよ、おじさん……。

ともあれ、トレーナーに声をかけられた以上、勝負をしないのはマナー違反である。

「勝負!」

「はがねのつばさ」

「イワークぅぅぅ!!」

瞬殺。
今までと違う登場の仕方だからもうちょっと粘るかと思った。

「あの、ちょっといいですか?」

「なんだよ……」

「今洞窟のどこら辺なのかわかりますか?」

すごすごと引き下がろうとするおじさんを引き留め、現状確認をする。


「もう出口の傍だよ。あそこを曲がれば出口の光が見える」

「あ、そうなんですか……。ありがとうございます」

「いやいや、勝負はともかく、困った時はおたがいさまさ」

いい人だった。
お礼も兼ねて、サイコソーダを渡す。
ひんしは回復しないけどね!



「うわまぶしい」

30分ぶりの光は、暗闇に慣れた目に優しくはなかった。
目がしばしばする。
今日の天気は晴れ。
一番日差しの強い時間帯らしく、目が慣れるのにしばらくかかった。
33番道路って、雨ばっかりじゃなかったっけ……。


「ん、ああ……アッシュ、ついたよ、ヒワダタウンだ」

いかにも、な、木でできた家。
流石にポケモンセンターはコンクリだったが。
ぼんぐりの木、積まれた薪。
ゲームと違いはなさそうだった。

「とりあえず、ポケモンセンターに行こうか、アッシュ」

えあー、と鳴き声を上げてアッシュは頷いた。

部屋をとってから、ウバメの森へ。
れっつらごー。
………ちょっと古いか。









「まー、これまた出そうな雰囲気ですこと……」

全体的に薄暗いウバメの森。
じめっとしていてうすら寒く、いかにも、といった雰囲気を醸し出している。

でも夜には出るんだよね……ゴーストとか、ゴースとか。

「ん?」

すぐ後ろの草むらで、がさりという音がした。
振り向いても、何の影も見えない。

うーむ、鉄板。

「ここで『そこだっ!』とかいって石でも投げられたらカッコいいんだけどなぁ」

あいにく、私にそんな機能は搭載されていなかった。残念。

しかし間を開ければいいものを、どれだけ構ってほしいのか、さっきからがさがさがさがさそこかしこで音がする。
構ってちゃんめ。
……そう思ったら怖さが無くなってしまったな。
妄想癖のある者の特権だ。

「……めんどうだから先行くか。ここにいても姿見せなさそうだし」

これで出てきたら、正真正銘の構ってちゃんである。
ピカチュウだといいのになー。

おっと、私の邪な考えを見抜いたのか、アッシュがボールの中から睨みつけてきた。
そんなんで私の防御は下がらんぞ。


「ぴ、ぴか……」

ずっきゅん。

そんな音が、私の胸から聞こえてきた。
古典的。

「………ドストライク」

思わず小さくガッツをしてしまったのは私のせいではない。
しかし、これなんてご都合主義?
人間だったらギャルゲだぞおい。
涙目のピカチュウ、かわいすぎる。
おずおずと木の陰から出てくるピカチュウ、犯罪級。
そこに痺れる、憧れるぅっ!
……憧れるというか、なでくりまわしたいというか。
とにかくかわいかった。
構ってちゃんめ!

「……なにか、用かな?」

なるべく刺激しないように、言葉を選んで聞いてみる。
メンタルが弱いのは、どこか行く宣言をしただけで涙目なことで確認済みである。
聞いても言葉が通じないことに気付いたのは、ピカチュウの鳴き声を聞いてからだった。

「ぴーぃ、ぴかぴかちゅ。ぴっかぁ!」

ひとしきり何かを言ってから、曖昧な私の笑みに言葉が通じないことを勘づいたのか、ひしっと私の足にしがみついてきた。

もう……もう、私のライフは0なんだけどな……!

「えーと……合ってたら一回、間違ってたら二回鳴いてくれるかな?あ、今ははいが一回、いいえが二回」

ぴぃか!と力強い一回の鳴き声。

「もしかして、ついてきたいのかな?」

ぴぃか!と鳴いた後、声はない。
これなんてご都合主義?
大事なことなのでもう一度。
これなんてご都合主義?



………ええと、ピカチュウゲットだぜ?
…………………。
そうなんだぜと言ってくれる相方、募集中です。








*******





「当初の目的は達したわけですが」

所変わって、ここはポケモンセンターの一室。
ポケモンも泊るので、ポケモンセンターというのは基本的に防音設備は完璧である。
つまり、思いっきり怒っても支障ないということ。


「アッシュ!ミモザのこと睨むのいいかげんやめなさい!それとミモザ、君も物を蹴散らしながら逃げないの!」

タイプ的にはミモザのほうが優勢でしょうに!



あ、自らボールに入っていったピカチュウの名前はミモザでございます。
サラダが由来では断じてない。
ミモザサラダのミモザは植物の名前です。
黄色い花が鮮やかな、3月25日の誕生花。
花言葉は豊かな感受性。
……このミモザは感受性が豊かすぎる気がするな!マイナス方面に!


閑話休題、認めないと言わんばかりにぎろりと睨みつけるアッシュに、ミモザはビビりまくりである。
もう少しおびえて涙目なミモザを見ていたい気もするが、小さな台風と化しているミモザを放っておくわけにもいかないので仲裁にはいる。
被害は甚大だった。
壊れていないのが救いだ。
元の場所に直すだけでいいんだから。
正座させたいところだが、二人(匹?)とも正座なんぞできる足ではないので断念。

「とりあえず、アッシュはミモザに謝りなさい」

不満げに、えあーと鳴いてそっぽを向く。
嫌だと言ったのかしぶしぶ謝ったのかわからない反応だ。
とりあえずミモザがまだおびえているので、どっちにもとれるように注意。

「ちゃんと謝んなさい」

お母さんって、こんな気分でけんかの仲裁にはいるんだね……。

「………………」

アッシュはむっつりと黙ってしまった。

拗ねてしまったようだ。
普段クールな面しか見れないぶん、とても可愛い。
ミモザにも一応注意しておくか……。

「ミモザにもちょっとは非があるよ。怯えてばっかりだとそりゃ怒りたくもなるさ。 とりあえず、二人ともお互いに謝んなさい」

ちょっときつめに言ったせいか、ミモザはしょぼんと肩を落としてしまった。
抱きしめたい衝動に駆られたけど、我慢。

「……ぴ、ぴか……」

ぺこり、とミモザがまず頭を下げる。
それを見て、ちょっと思いなおしたのかアッシュも、

「えあ」

と短く鳴いて、小首を傾げた。
……頭を下げたんだよね、今のは。

「うん、まあ仲直りしたね、うん。じゃ、二人も片づけを手伝おうか」

自分たちの責任だとわかったのか、二人とも素直に動いた。




あらかた片付いたところで、備え付けの小さい冷蔵庫からサイコソーダを出す。

「ん、二人とも、片付けがんばったのと、ちゃんと仲直りしたご褒美」

アッシュは少しだけ嬉しそうに、ミモザはサイコソーダの缶を見つめてきょとん、としている。
そういえば、野生のポケモンは知らないよね、サイコソーダ。

「これはサイコソーダっていう飲み物だよ。飲んでみて嫌だったら私が飲むから、ちょっと飲んでみて」

しゃがみこんで説明。
首を傾げた後、ミモザはプルタブをかりかり引っ掻いた。
開けられないらしい。

「……開けようか」

開けてから渡すと、ミモザはほんのちょっと舌でなめた。
気に入ったらしく、缶を手放そうとせずにちびちび飲み始めた。
今のところ、私のパーティではサイコソーダが人気、と。
ちなみにアッシュはミックスオレが苦手らしい。
経済的でよろしい。









.(10/08/17 UP)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ