シリーズもの

□バッジ一つめ
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「さて、ミモザが仲間になり、パーティが二人に増えたわけですが」

ミモザもアッシュも首を傾けている。
かっわいい……。
メロメロ攻撃か……!

「ここのジムはむしタイプが主流です。アッシュはむしに強いし、むしポケモンにはひこうタイプが一緒になっている場合も多いから、ミモザも十分に有利」

アッシュはじっとこちらをみつめ、ミモザは頷きながら聞いている。
……人間くさっ。

「でもミモザは入ったばっかりであんまりバトル慣れしてません。よって、ミモザの腕慣らしの意味も含めて、今回のジムはミモザがメインで戦ってもらいます」

ミモザはびくりと震え、ちらっちらアッシュのほうを見た。
アッシュはふん、と鼻を鳴らすだけ。
いまだに上下関係が続いてしまっている二人であった。

「まあ、メインと言ってもピンチになったりしたらちゃんとアッシュに代わってもらうから、気楽にね」

「ぴ、ぴかあ……」

黄色の体毛でよくわからないが、少し顔が青ざめている。気がする。

……よく考えると、覚えている技とか何も分からないんだよね。
まあそこはウバメの森で軽く練習してから挑むから、問題はナシ。


………いい加減アッシュの顔色うかがうのやめなさいよね、ミモザ。










「……あ、ぼんぐりだ」

青ぼんぐり。
ボールの材料かあ。
みずタイプは絶対にこの先必要になるしなあ。
とっておこうか。

「……コツが必要とかいってたっけ?そういえば」

実を幹からはずしたところではたと思い出す。
もうとってしまった後なので、無駄なのだけれど。

「ま、今はジム戦が先決、かな」

早くしないとミモザが不安と緊張で死にそうだ。
仲間になって半日しかたってないのにお別れとか嫌すぎる。

「さて、これからとりあえずの練習をするわけだ」

ミモザは私の足にしがみつき、アッシュは青々と育った木の枝に飛んで行ってしまった。
パーティ誕生二日目、チームワークは最悪です。


「とりあえずミモザの覚えている技の確認するよ。アッシュはよけるだけね」

ちら、と目で合図を送ってみると、アッシュは木の枝から飛び去り、私とミモザの目の前でばっさばっさと羽を鳴らしながら空中にとどまった。

「ミモザ、でんこうせっか」

まずは当たり障りのない技から。
ミモザは一瞬ためらったものの、問題なくでんこうせっかを披露した。

「でんじは」

アッシュがよける。
アッシュには弱点となるタイプなので、アッシュも必死だ。
……悪いとは思うけど、じめんタイプの子、いないんだもん。
ていうか、でんじははダメージ受けるタイプの技じゃないし。

「電気ショック」

これも発動。
アッシュに当たりそうだったのは気のせいか?

「十万ボルト」

……は、出なかった。
まあ20レべ代だしね、覚えるの。

「ううん……じゃあ、スピードスター」

出た。
……あれ、自力で覚えたっけ?

「ふうん……意外と、レベルも高いみたいだな……」

ここまでで4つ。
たしか4つまでしか覚えられないはずだけど、と思ったが、遊び半分で言ってみることにした。

「ミモザ、ボルテッカー」

―――まさか出せるなんて、みじんも思わずに。

「えあぁっ!」

「っアッシュ!? 、ミモザ、なんでボルテッカーが……!?」

あれはピチューの特殊なタマゴ技なのに。
いや、そんなことは今はいい。
レベル差がかなりあったとはいえ、ひこうタイプにでんき技。
その上付属効果でアッシュはまひしていたし、ボルテッカーはミモザにもダメージの来る諸刃の剣の技だ。

急いでポケモンセンターに行かないと……!









―――――――――






「さ、ジム行こう!」


…………。
そんな目で見るなよう……。

「まあなんとなーく戦い方はわかるでしょうよ。あのあと何回かアッシュの戦う姿見たから」

それでもアッシュたちは私をじとりと見つめてきた。
そんなんじゃ私の防御は以下略。

「ああ、昨日のうちに申し込みは済ませておいたから、すぐにリーダーと戦えるよ」

あの後、私たちはすぐにポケモンセンターに行った。
ミモザたちが手当と検査をしてもらっている間に、私は申し込みをしておいたというわけだ。
はっはっは。私に抜かりはない。
予定が一日遅れたというのは少し痛いが、まあ許容範囲だろう。
ダメだったらダメだったときで考えればいいさ。
命が無くなるとか、其処まで重要な内容でもなし。
かくて私たちは、ヒワダジムリーダー、ツクシに挑むためジムの重き門を開けたのだった。
……ここに自動ドアだったことを表記しておこう。
も、申し込みはポケモンセンターでできたから知らなかっただけなんだからねっ!





「これより、ヨシノシティのナナコと、ジムリーダー ツクシの試合を開始します!」

審判が、私とツクシさんの構えるボールを見やり旗を振り上げた。

「はじめ!!」

「いけ!!ヘラクロス!」

「ミモザ!いって!」

ヘラクロス。
むし・かくとうのポケモン。
ミモザとの体格差が大きい上、背面の硬い翅には打撃技は効きにくいだろう。
つまり。
小さいミモザが大きいヘラクロスに向かって正面から攻めなければいけないというわけで。
……しかもでんき技効き目ふつうだしなー。


「ミモザ!スピードスター!!」

とりあえず、先手必勝。

「くっ。 ヘラクロス、ちきゅうなげだ!」

「転がってよけて!」

投げ技は掴まれる前によけてしまえばなんてことはない。
柔道部マネージャーの経験がこのようなところで役に立つとは。
一年で辞めたけど。

しかし、スピードスターは威力が低い。
長距離技はよけるのに役立つが、威力が弱くて駄目だな。
スピードスターに関しては先手を取れる分、便利だけれど。

「でんこうせっか!」

当てて、すぐにでんこうせっかを使い離れる。
ヒットアンドアウェイ戦法だ。

「くっ……。 ヘラクロス、いやなおとだ!」

トレーナーにまで響いてくる音に、ミモザが苦しそうな顔をする。
これを出してくるということは、一撃必殺を狙ってるな。
つまるところ、相手は今ピンチ!


「ミモザ、でんこうせっか!」

何もする隙を与えないで。

「でんきショック!!」

衝撃で砂埃が舞う。
ど歳という重そうな音ののち、薄れる砂埃の向こうに見えたのは、倒れたヘラクロス、それにまだまだ元気なミモザの姿だった。


「ヘラクロス、戦闘不能!ピカチュウの勝ち!よって勝者、ヨシノシティのナナコ!!」


声高らかな審判の宣言。


多少の不安はあったものの、ミモザは見事、初陣を完全勝利で飾ったのだった。


「お疲れ、ミモザ!」

ちゃあ、と甘えるように飛びついてくるミモザに悶え死にそうだが、ガマンして抱きしめる。
気をつけないと、抱きつぶしてしまいそうだった。


「ナナコさん」

「! ツクシさん」

晴れやかな笑みを浮かべたツクシさんが、背後から声をかけてきた。

「完全なる負けでした……。お強いんですね。手も足も出ませんでした」

「あは、ミモザは強いですから!」

「あはは……。負けたからには、これを渡さなければいけませんね」

そういってツクシさんが取り出したのは、きらりと光るバッジ。

「インセクトバッジです。ご存じだとは思いますが、カントーかジョウト、どちらかのジムを制覇すると半年後に開催されるポケモンリーグの本戦無条件出場権が与えられます」

丁寧なツクシさんの説明。
リーグは半年後……。
半年で、集まるかな。
4章の主人公ちゃんは2ヶ月強で集めていたけど……あれは、言っちゃ悪いが運によるものも大きいからな。

バッジを受け取り、バッジケースにはめ込んでいると、それを見ていたツクシさんから意外そうな声が上がる。

「あれ、まだ一つなんですね。ヨシノシティの方だから、てっきりキキョウジムに挑んだ後かと思ってました。」

「キキョウシティはジムリーダー不在とかで休みだったんですよ。リーグ開催が近いから、ヒワダジムに挑んでから戻ろうかな、と」

「ああ、なるほど。それじゃあ、これからキキョウシティに戻るんですね」

「はい」

へえ……と相槌を打った後、ツクシさんは考え込むように黙ってしまった。


「……?」

「あ、ああ、すみません。 あの、ナナコさんはつながりの洞窟を使いますか……?」

「つながりの洞窟?」

「ジョウトの各地につながっていると言われている洞窟です。今は主流ではありませんが、昔は結構使われていたんですよ」

「へえ……。 いや、使いませんけど、なにかあるんですか?」

「いえ……最近、つながりの洞窟に関するうわさが絶えないんですよ。ポケモンの悲鳴が聞こえた、とか……」

「はあ……」

ポケモン同士の小競り合いじゃないのかな。
そんなことあるのかはわからないけど。

「ええ、まあ、それだけなんですけど、使うんだったら気をつけた方がいいと思いまして」

「そうですか……。大丈夫ですよ、私、ちゃんと道路を使いますし、いざとなればそらをとぶを覚えている子がいますから」

「そうなんですか、ならいいんですけど」

「あは、心配してくださってありがとうございます」

「あ……いえ、そんな………」

ツクシさんかわいいなあ。
ゴールドくんが女の子に間違えるのも、わかる気がする。

「じゃ、ありがとうございましたー」

「近くに来た時には、よってくださいね」

「はい、ぜひ!」

手を振ってさようなら。
初のジム戦はとてもさわやかに終わった。
ううむ、この後のジム戦も、全てがこのように終わらないかな。






(10/10/01)

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