シリーズもの

□緑のあの子と
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「キキョウシティ、到着ーっと……。ジム、あいてるかな?」

まずはポケモンセンターに寄って、今日の宿を確保せねば。
ミモザたちも疲れてるし。

「こんにちは!ポケモンの治療ですか?」

「こんにちはー。いや、部屋を取りたいんですけど……」

「わかりました。ではトレーナーカードを……」

しかし、ジョーイさん一族以外にポケモンセンターで働く人はいないのだろうか。
病院があるのかな?

「はい、では201号室です。鍵をどうぞ」

「ありがとうございます。 あ、そういえば、キキョウジムって開きました?」

「あら、ジム戦なの?」

「はい、一応」

笑って頷くと、ジョーイさんの顔が少し困ったものになった。
まだ……なのかな?

「それが、まだなのよ……。確か、明後日に後継のリーダー試験が行われるはずだけど」

「明後日……ですか」

「ええ。急いでるの?」

きょとり、とジョーイさんは首を傾げ、問うてきた。

「あ、いえ、急いでるってわけではないんですけど……」

半年後に間に合うか不安というか、何というか。
あれ、これって急いでることになるのかな。

「でも、こればっかりはしょうがないわよね……」

「はい……」

二人で苦く笑い、私は自分の部屋へと向かった。



「わあ、キキョウシティのポケモンセンターの部屋きれいー……」

くそう、こんなにきれいなら、前来た時に素通りしなければよかった。
……いや、あのときはゴールドくんに追いつかれるという不安があったんだっけ?


「ミモザ、アッシュ、サイコソーダ飲む?」

二人とも、元気にお返事。
疲れてるんじゃなかったかな。
ぐびぐび飲むアッシュとちびちび飲むミモザの対比に癒されていると、バッグの中から甲高い機械音が聞こえた。

「ポケギア?」

誰からだろう。
今はまだ誰にも教えていないけれど。

「……母さん?」



『はっろー』

「はっろー。何がどうしてこうなった?」

『ちょっと、3、4日ぶりくらいの母親に対して何よその言いぐさ』

「日数あやふやじゃねえか」

『そうそう、あんたに用事があったのよ。用事がなきゃあんたのポケギアなんかにかけないわ』

無視された挙句、さらりとひどいことを言われた。
娘が旅だった日を正確に覚えていない母親に言われたくない。
こっちだって願い下げである。

「なに?」

『うちに卵が届いたのよ。あ、ポケモンのタマゴよ?食用じゃないわよ?』

「はいはい、わかってますよう……。で、そのスクランブルエッグが何?」

『ポケモンのタマゴね。あんた今卵料理食べたいの?』

「鋭いね母さん。その通りだよ」

『あっそ。で、そのタマゴをあんたに預かってほしいのよ』

華麗にスルーされてしまった。

「なんで?」

『タマゴっていうのは元気なポケモンと一緒にいると孵るらしいのよね、送ってきた人いわく』

「……アッシュか」

『そう』

「でも、今は確かポケモン転送装置がイカれてるって言ってたよ」

『あらやだ、あんたその年からボケてたら将来大変よ? アッシュが空を飛ぶを覚えてるでしょ?』

「……アッシュ、今疲れてるんだけど」

『ほらあれよ。特訓』

……あんたに人間の情はないのか!



「ということでアッシュ本当に申し訳ないんだけど、ヨシノシティまで飛んでくれるかな……?」

必死にアッシュを拝み倒す。
とっくにサイコソーダを飲み終わり、うつらうつらと舟を漕いでいたところにこれなもんだから、私を睨みつけている。
うう、今回ばかりは防御が下がるどころかHPがガンガン減っていく……。

こうかは ばつぐん だ!


「いやもう本当ごめんなさい」

ついには土下座までしてしまった。
頼みごとで土下座までするのは、初めてだった。


「…………」

……………。
沈黙が痛かった。







「ただいま5日ぶりの我が家……」

疲れた。
アッシュがへそを曲げてしまい、説得に30分かかったのだ。
ミモザはその間ボールの中で寝てました。
………ミモザ、君図太くなってないかな?


「おっそいわよ、ナナコ。もう紅茶3杯もお代わりしちゃったわ」

「紅茶の葉っぱ取り替えろよ」

こちらを向いて眉を寄せている母さんのカップには紅茶のパックが1つしか入っていなかった。
貧乏性め。

「話をそらさないの!まったく誰に似たんだか……」

絶対母さんだよね

弟よ、言うてはならぬ

眼だけで会話をする。
古語になったのは気分である。

「で、そのタマゴってどこ」

「これよこれ。がんばって孵してね。孵ったポケモンはあんたの仲間にしていいから」

とりだしたるは人の頭程度のタマゴ。
わあ、とっても毒々しいや☆
薄紅色のタマゴに濃い緑と紫の模様が散っていた。
もうちょっとさあ、トゲピーのタマゴみたいに目に優しい配色にしようよ……。
紅色と緑と紫て……。
この配色には嫌な予感しかしないぞう。
あれだろ。グレッグルとか、マユルドになるケムッソのタマゴだろ。
絶対どくかむしタイプ入ってる。

「がんば、ナナコ」

「軽くないか。 あのさあ、聞きたかったんだけど、送り主ってどこの地方の人?」

それによって結構変わってくると思う。主にポケモンの種類が。
どの地方かってすごく重要。
知っているか知らないかで、育て方もちがってくるし。

「イッシュ地方。キミコ叔母さんが送ってきてくれたのよね、あんたに」

「イッシュ……結構遠いね」

「でしょう?」

うん。
ぶっちゃけると、イッシュ地方ってどこか知らないんだ。
新作の地方かな。
それとも、ここにもともとあった私の知らない地方かな。
いやしかし、結構遠いねって言い方、便利。
地方が違えば遠いのは当たり前だからだ。
例外として、ジョウトとカントー。

「ふーん……イッシュねえ。 イッシュって、どんなポケモンいるの?」

「行ったことないからよくは知らないけど……とりあえず、こっちのポケモンみたいな見た目のはいないわ。うん……奇抜、っていうのが一番あってるんじゃない?」

まあ向こうの人から見ればこっちの方が奇抜なんでしょうけど。

そう続けた母さんは、イッシュ地方にまったくと言っていいほど興味が無いように、紅茶を飲むだけだった。
……………?

「……そんなに奇抜じゃないといいなあ。びっくりするから」

「普通、奇抜なのは絶対いやっていうんじゃない?」

「どんなに奇抜だろうがポケモンだもん、可愛いよ」


そんな変なものを見るような眼を向けられたって私はめげないぞ。
めげないぞ………!
母さんは私に一瞥もくれず、紅茶のカップを見たまま言った。

「まあナナコのポケモンラブなところは変わってないようで安心したわ」

?、
たしかにポケモンは好きだけれど、なぜそれで安心されるのだろう。

ていうか、たった5日で人はそんな変わらないよ、母さん。

「ま、いずれわかるわよ」

「……なんか、子供扱いされてる? たしかに私は子供だけどさ……」

「子供っていう自覚あるんならいいわ」

………あれ、話をそらされた気が。

「……これだけ?」

「これだけ」


………いたいいたいいたい視線が痛い。
ごめんなさい疲れているところ飛んでもらってこれだけとか本当申し訳ないごめんなさい睨まないでください。
いや、タマゴに罪はない。
悪いのはどSの母さんである。

「ああ、自転車持ってっていいわよ」

「え?」

「表にある折りたたみ自転車。私もう乗らないから」

……旅立ちの日に言ってくれ……!







本日の収穫

毒々しいタマゴ(※食べられません)
折りたたみ自転車

アッシュのイラつき



アッシュが怖い。
ミモザの気持ちがわかった気がした。
アッシュが怖い。


――ナナコの日記より、一部抜粋





.(10/10/16)
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