シリーズもの
□博士とジムリーダーと
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「おおう……イッシュって都会ー……」
ただ今わたくしナナコは、故郷・ジョウト地方を離れ単身イッシュ地方へ来ています。
オーキド博士のお使い。
端的にいえばそれだけのことである。
お使いで地方越えさせるとか、オーキド博士ってば人使い荒い……。
それはさておき、今私がいるのはヒウンシティ。
ものすごい都会だと思ったが、タウンガイド見る限りだとイッシュでも有数の近代都市らしい。
さすがにこれが標準ってわけじゃないのか。ほっとしたというか、がっかりしたというか。
「で……アララギ研究所、ってのはー……カノコタウンかー」
かわいらしい名前だなあ、というのが第一印象。
遠くね?と地図でのヒウンシティとの距離にげんなりしたのはその一瞬後だった。
「くりゅみりゅ」
「かんわえええ……!!キャタピーとはまた別のかわいさ……!どこが奇抜だよ、母さん……!」
クルミルというらしい(アララギ博士に教えてもらった。ついでに図鑑までもらってしまった)ポケモンのかわいさに悶えつつ。
「くるまぁー」
「この眠そうな目が何とも……!」
クルマユというらしい(アララギ博士に以下略)ポケモンの愛らしさに悶絶しつつ。
「ぺーんどー!!」
「勇ましい!勇ましい!!」
ペンドラーというらしい(アララギ以下略)ポケモンの勇ましさに興奮してポケギアの写真フォルダを急速に埋めつつ、私はようやくカノコタウンへと着いたのである。
長かった。
写真何枚撮ったんだろう。ひいふうみい……うわあ500枚こえてる。
「アララギ研究所は、っと……でかぁ……」
うわあ……。
タウンマップに従い、右に顔を向けると、ウツギ研究所なんかとは比べ物にならないほど大きい家(?)が目に入った。
オーキド研究所とどっこいどっこいって感じか。
あれ、オーキド博士って権威だよね?
「……まあはいるか……」
「やー、助かったわー。ありがとね、ナナコちゃん!」
「いえいえ。 ところでどうして私は腕をつかまれているんでしょうね?」
「それは簡単。ナナコちゃんにもうちょーっとお願いがあるからよ」
そんなハートが付きそうな語調で言われても。
「えええ……私ちょっと疲れたんですが……」
「でもポケモンセンターに言ってある到着時間にはずいぶん早いでしょ?お使い、頼まれてよお」
「なんで知ってんですか。 ……あーもう、なんか奢ってくださいよ。それと遠いところへのお使いは嫌ですからね」
「さっすがナナコちゃん!あなたならそういってくれると思ってたわー!」
あって一時間もしていない人間によくそんなことが言えたもんだと感心してしまう。
この人前世は詐欺師かなんかだろうか。口がうますぎる。
「はーい、わかってるわ!じゃ、これサンヨウシティとシッポウシティとヒウンシティのジムリーダーによろしくぅ!」
「……はあ」
「あ、明日はちょっと遠いところに運んでもらうからねー!」
「明日もあるんですかっ!?」
扉を閉める直前にとんでもないことを言われてしまった。
……本気であの人、詐欺師かなんかじゃないだろうか。
いうタイミングとかがプロっぽい。
腰につけたボールからのあきれたような視線が痛いが、まああきらめるか。
カントーやジョウトの人間はコガネの人以外押しに弱いのです。
イッシュからは表情がいつも同じでよくわからない人間認定されているらしい。豆知識。
「……サンヨウに行きますか……」
アッシュに空を飛んでもらおうとボールを出したはいいが、はたと思い出す。
……ここ、イッシュじゃん。
イッシュにはエアームドという種族のポケモンは全くと言っていいほどにいない。
というより、誰かがジョウトだとかカントーから連れてこないとみることなどできないポケモンだ。
つまりアッシュに飛んでもらったら、見世物になることうけあいである。
そんなわけで、私は徒歩でサンヨウまで来たのです。
……予約とったポケモンセンター、ヒウンシティだからいいけどね。
「すいませーん……」
「いらっしゃいませー!」
「おひとり様ですか?ささ、こちらへどうぞ!」
「え、いや」
「本日のおすすめはモモンの実のスイーツでございますが、ご注文は何になさいますか?」
見事な連携で、おずおずと扉から顔を出した私を席へと座らせるウェイターさん。
赤と青の髪のコントラストがきれいな二人組である。
しかしこの二人に案内されたからかなんなのか、周りのおねーさま方の視線がものすごいことになってる。
おねー様方の顔が怖い。
しかし、スイーツ(笑)?おいしそうな写真だなあ。安いし……あ、ポケモンも一緒に食べられるんだ、このスイーツ(笑)。
……って、ちがうよ!
「あの、デントさんとコーンさんとポッドさんていらっしゃいますか?」
……この時ほど、オーキド博士のお使いを恨んだことはないと思う。
この言葉を言った途端、店の温度が急激に下がったのである。
おねーさま方だけでなく、ウェイターさんの視線も心なしか冷たく、笑顔もひきつっているような。
「……失礼ですがお客様、その三人になにかご用事でも?」
「え、あの……その三人がサンヨウジムのジムリーダーなんですよ、ね……?」
「……はい、そうですが」
こわいこわいこわい。
目が笑ってないよこの青い人。目からぜったいれいど出てるよ。 いちげき ひっさつ!▽
赤い髪の人は、私に青い人と同じような態度をとるかそれとも青い人をたしなめるか迷っているようだった。
ぜひともたしなめてください。
蛇ににらまれたカエル……いや、アーボックににらまれたニョロトノとはこのことだろうか。
なにか言わなくてはいけないのは分かっているが、こわくて口が動かない。
「コーン、ポッド!なにしてるの、もう料理出来上がってるよ!」
救世主が現れたのは、その時だった。
「すみませんでした……コーンの早合点のせいであんなことを……」
「い、いえ……さっさと要件を言ってしまわなかった私のせいですし……」
ところ変わって、カフェのキッチン。
深々と頭を下げるのは、赤い人と青い人改めポッドさんとコーンさん。
申し訳なさそうに苦笑するのはデントさんだ。
「アララギ博士から書類が届くのは知っていましたが、いつも通り助手の肩が来ると思っていたもので……」
「まさか、あんたみたいな女の人が来るとは思ってなかったんだ……悪い」
助手がなぜかみんなやめていったらしい……なんて言えない雰囲気。
すごく神妙。
そんなに気にすることないのに。確かに怖かったけど。
ぶっちゃけコーンさんたちより面倒なことを頼んだアララギ博士や、そもそもの元凶であるオーキド博士に文句を言いたい気分なのでそんなに怒っていなかったりする。
コーンさんたちには、だけど。
「まあとりあえず渡せてよかったです。じゃあ、私はこれで」
「え、もう行ってしまうのかい?」
「まだ残ってるんです。シッポウシティとヒウンシティのジムリーダーさんにも届けなければいけないので」
アララギ博士人使い荒い。
もう私疲れたよパ○ラッシュ……。
つい遠い目をしてしまっていたのか、三人が一様に苦笑していた。
パッと見全然似ていない兄弟だなあ、と思っていたが、同じ表情をすると案外似ているかもしれない。
「そうなんですか……それではお引止めするわけにもいきませんね」
「まあまた来いよ。今度は今回の詫びも含めて、精一杯もてなしてやるからさ!」
「それは私に死ねと言っているのと同義ですよ、ポッドさん。 そうですね、まだこちらにいる予定なので、また近いうちによらせていただきますね、コーンさん。あ、普通の接客でいいです。普通ので」
おもにおねーさま型の視線にさらされて死ぬから。
あれは視線だけで人を殺せるレベル。
女の子の嫉妬って怖いよね!私も同じ女だけど、あそこまで執着するのはないかなあ。
改めて、私の周りの人たちがさばさばした感じの女の人ばかりで良かったと思う。
それと周りの人たちのお相手が、特定の人しか見えないようなストーカー気質げふんごふんっ一途な人ばっかりで。
(11/07/03)
尻切れトンボな気がする。