シリーズもの
□バッジ二つめ
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「んじゃ、キキョウジムにのりこむぞー!」
おー!と手を挙げたのは私一人で、アッシュとミモザはまたかよ……みたいな目で私を見てきた(ミントには手がない)。
ま、負けないもん……!
「すいません」
「はい!なんでしょう」
「昨日申し込みをしたナナコですが……」
「はい、ナナコですね、お待ちしておりました!ではこちらがバトル場になります」
そういってお姉さんが手を差し伸べた場所には壁があるのみ。
……?
「!?」
うぃーん、がしょん。
古典的な音が聞こえてくるとともに、壁が開き、バトル場独特の土のにおいがぶわっとやってきた。
すげえハイテク……!街にこの金使えよ……!
「ではいってらっしゃいませ」
自慢げにするでもなく、ただ微笑んで私に言うお姉さんは大物だと思った。
「これより、ヨシノシティのナナコと、ジムリーダー ハヤトの試合を開始する!」
ガタイのいい審判が、私たちを見る。
やっぱりこの人も警察官なんだろうか。
ただのブリーダー(もしくはトレーナー)でこの体って普通ないよね。
シジマさんじゃあるまいし。
「使用ポケモンは二体、途中での交代は挑戦者のみ認められます」
あれ、ヒワダのジムと違う。
うーん、できれば交代はしたくないなあ。
アッシュはやりたくなさそうにしてたし、ミントはこっちじゃ全く見ないポケモンだから、それこそ見世物になってしまう。
「はじめ!」
「いけ、ピジョン!!」
「ミモザ!行って!」
ピジョンの特性にいかくはないはずだが、ミモザはその鋭い眼光に少しだけひるんでしまっているようだった。
君が負けた後のアッシュのほうが怖いから!頑張って!
「ミモザ、スピードスター!」
光輝く星が相手のピジョンを襲う。
そのあいだに、ミモザはぎりぎりまでピジョンに近づき、攻撃のタイミングを計っている。
「く……ピジョン、かぜおこしだ!」
「でんこうせっか!」
「なにっ?」
今まで翼で弱点をカバーしていたピジョンが、ハヤトさんの指示のために翼を広げる。
弱点がら空きってわけですよ。
「そのままでんきショック!!」
「ぴ、ピジョン……!」
「ピジョン、戦闘不能。ピカチュウの勝ち!」
ピジョンの断末魔(違う)があまりにも悲痛な声で、指示した私が思うことじゃないけど、ちょっと悪いことしたかな……と思ってしまった。
赤のチャンピオン戦で倒されてしまったシェンナ(ピジョット♂)を思い出す。
くそう、やっぱり初代ポケモンは思い入れがありすぎる……!
「……交代はしないのかい?」
「え、あ、はい」
「……後悔しないことだ……!いけ、エアームド!!」
アッシュが出たー!!
アッシュや!アッシュや!でもなんか違う!アッシュはあんなに……!なんかこう、きりっとしてない!
かっこいいってなる感じじゃない!KOEEEEEEEってなる感じ!ヤの付く自由業みたいな!
「……どうかしたかい?」
「あっいえ! そ、そろそろはじめましょう!そうしましょう!」
あまりにエアームドを見つめすぎていたのか、ハヤトさんに怪訝そうな顔をされてしまった。
気を付けよう、いくらアッシュが愛しいからって。
「はじめ!!」
「エアームド、はがねのつばさ!」
「でんこうせっかでよけて!」
いきなり攻撃に出たなあ。
やっぱり、さっきのでミモザのスピードを警戒しているのかな……。
でも、接近戦を仕掛けてくるんならまだやりようはあるよね。
「エアカッター!」
「! ミモザ!」
接近戦だと思ったら、遠距離の技を仕掛けてきた。
……読み間違えちゃったな。
ミモザごめん、もうちょっとがんばって!
「スピードスター!」
「またそれか! だが、エアームドには効かないぞ!!」
「でしょうね……!」
はがねにノーマルは効かない。ゲームだと少しは効くが、ここは現実。
鋼にただのアタックが効くなんて考えるわけがない。実際アッシュには効かないし。
でも、効かなくたって衝撃はくる。
ちょっとでも隙を作れれば!
「ミモザ!じゅうまんボルト!!」
つい昨日覚えたミモザの切り札。
んん、ちょっと狙いが甘いかな?
でもやっぱり強い技だけあって、十分にすごい。
「……エアームド……」
「エアームド、戦闘不能! よって勝者、ヨシノシティのナナコ!」
審判さんの声を聞き、ようやく買ったのだ、と息をつけた。
いやしかし、じゅうまんボルト一発で倒せるってなかなかないよね。
ミモザがすごいのかそれともエアームドが……。
いや、ミモザがすごいんだね。そうに決まってるね。
「ナナコさん」
「ハヤトさん」
「負けたよ……。君のピカチュウ、強いんだな」
「はい!自慢の子です」
ハヤトさんはそれに笑い、そしてバッジを差し出した。
「これがウイングバッジ。キキョウジムリーダーに勝った証だ」
「ありがとうございます!」
「しかし……ジムリーダーになって二回目で負けるなんてな。 俺がジムリーダーでもいいものか……」
今まで笑っていたハヤトさんの顔が、見る見るうちにかげっていった。
この人まじめだからきっと一度落ち込んだらめんどくさいことになる!
ていうかやっぱり私が最初じゃなかったんだね。
ジムリーダー試験終わった後すぐに申し込んだら断られたからもしかしてとは思ってたけど。
「そんなことないです!ミモザがエアカッターを食らっちゃったとき、ミモザ本当はちょっと危なかったんですよ!」
「……ほんとうかい……?」
「本当です!じゅうまんボルトもちょっと賭けでしたし……ハヤトさんがジムリーダーにふさわしくないなんてことありえません!」
だからそんな捨てられたガーディみたいな顔はやめてください!
とは言わなかった。言ったらさすがにかわいそうだ。
「……そうかな……。ふふ、君に言われると少し救われるな」
思わずガッツ。
面倒なの免れたっていうのもあるけれど、それを上回るくらいにハヤトさんの笑顔には破壊力があった。
なにこの警官かわいい。
こころなしか審判さんも満足そうだ。
「じゃ、ありがとうございました」
「また近くに来たら寄ってくれ。歓迎するよ」
「はい、またぜひ」
手をふるハヤトさんに手をふりかえし、ポケモンセンターへと向かう。
またフラグを立ててしまった気がしなくもない。
しかし、あそこはああ言うしかないじゃん?
強制フラグだったのか……?
11/07/10