シリーズもの
□強気なあの子とバトル
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さてさて、ご飯を食べ終えたところでいまだに時刻は9時を少し回った程度である。
おユキちゃんは本格的に野宿だったらしく、久々に他人が作ったご飯を食べたと言っていた。
……乙ゲーの寂しいクールキャラか!と突っ込みたくなってしまったのは秘密。
まあかわいいからよし。
「んー……まだちょっと時間あるけど、どうする?」
「……ご、ごめんなさい」
「もう気にしてないってば。ほっぺたつねるよ?」
「やめて」
あわてて両側のほっぺたを手で隠すおユキちゃん。
ともすればぶりっ子ポーズにもなるが、おユキちゃんがやるとすごくかわいかった。
むーん、しかしどうするかなー。
とりあえずバトル場の予約はするけれど、それも5分とかからずに終わるだろう。
ウォーミングアップは30分もあれば十分。
残り30分弱をどうするか。
……時は金なりっていうけど、時も金もいらない時に有り余るよね。
いる時には無いくせに。
「んー……バトルまでどうする?」
「ウォーミングアップでいいじゃない」
何を言っているんだと言わんばかりのおユキちゃんである。
男らしいなあ。
「え、長くない?」
「私はいつもこれぐらいから始めてるわよ。ナナコはちがうの?」
「そっかー……私はもうちょっと後から始めてるなー……」
まじめっこだあ……。
「そうなの……まあ、でも私は私のスタンスを変えるつもりはないから、ここからは別々でウォーミングアップしましょう。また後でね」
あっという間もなく、おユキちゃんは去ってしまった。
競歩の選手も顔負けの早歩きだった。走れよ。
「……台風だよなあ、やっぱり」
ぴぃか?とミモザがボールの中で首をかしげる。かわいいな全くもう。
しかしまあ、私たちもウォーミングアップをする前に、作戦なりを考えるべきなのか。
……考えるべきだろうなあ、あのまじめっこにぶっつけで勝てる気がしない。
「さてさて、やる気満々で部屋に戻ってきたわけですが。 まああれですね、作戦と言っても連れてるポケモンも一匹しかわからない、さらにそもそも何戦勝負なのかも知らない私たちが、一体どんな作戦を立てられるのかって話ですよねー」
あっはっは。
……。
………。
そんな目で見るな……私をそんな目で見ないでくれ……!
アッシュは言わずもがな、ミモザは呆れた目をしているし、心なしかミントの目でさえも冷めて見える。
……そんな目でみるなよう……。
「いや、あのね、あのうっかり台風さんにうっかり聞き忘れちゃってね?それにそんなこと言う暇もなかったしね?」
言葉を重ねれば重ねるほどに彼らの眼から色がなくなっていく気がする。
わかる……アッシュたちが何を考えているのかわかるぞ……!
私たちの間には、言葉の壁なんて関係ないんだ……!!
……むしろ、言葉の壁がなかったらメンタルブレイクされていたから通じなくてよかったというか……今まさにメンタルブレイクされそうだから、本当に言葉の壁なんて必要ないというか……。
「先鋒アッシュ、中堅ミモザ、大将ミント!決定!異論は認めない!はい!作戦会議終わり!最初にウィンディ出てきたらどうしようね!」
やけになってる?やけだよこんちくしょう!
こんちくしょう……。
どうせ間抜けだよ!忘れてたんだよそんなアニメ仕様!
ゲームだと1対6とかいう鬼畜バトルもまかり通ってたんだよ!!もちろんこっちが6で!!
タイプ相性?ごり押しひゃっふうぅぅうう!!とかやってましたけどなにかぁ!?
拗ねて隅っこに三角座りしていると、背中にペタッと何かが当たる。
「……そんなかわいい顔したって駄目なんだからね……」
甘えるも効かないんだからね。
常にメロメロ状態だからそんなのどうってことないんだからねっ!
………。
あ、やばいミモザ泣きそう。
「………」
「…………」
アッシュ の にらみつける !▽
こうかは ばつぐん だ!▽
……なんでダメージ受けたんだ?
「……ごめんって………」
すっかり兄的ポジションを勝ち得たアッシュが、ミモザを泣かせた私を睨む。
その眼光の鋭さたるや、アルセウスも裸足で逃げ出すほどだ。いや、そんなことはないだろうけれど。
ミモザを抱き上げてあやしながら時計を見ると、そろそろ15分前になりそうだった。
「そろそろウォーミングアップにいこうか」
とりあえず無視はされなかったので一安心だ。
「あら、早いのね」
「ここでウォーミングアップしてたからね」
「そう。じゃあはじめましょう」
そういうと同時に、おユキちゃんは腰についているボールに手をかけた。
「ちょっと待ってよ……何対何の勝負?」
「え? ……言ってなかったかしら」
きょとん、と首をかしげるおユキちゃんはかわいいけれども。
そこははっきりしてもらわないと困る。
「言われてないよ」
「……そういえば、言ってなかった気もするわ……。 2対2の勝負。途中の交代はなしの勝ち抜き戦。 ちなみに私、結構強いわよ」
おユキちゃんはにぃっと好戦的に笑った。
本気で強そうである。怖い。
「お手柔らかにー……」
私たちの会話が終わったところで、審判さんが旗を持ち直す。
ボールを構えるのを確認した後、勢いよく合図を出した。
「はじめ!!」
「いくわよ!シアン!!」
「アッシュ、いって!」
おユキちゃんの持つボールから出てきたのはシードラ。
相性的にはお互いにいいとは言えない相手だ。
まあシードラならでんきもほのおも使えないから、安心と言えば安心か。
ウィンディじゃなくてよかったと喜んでおこう。
「スピードスター!」
「シアン、避けて!」
シードラに避けられてしまった。……水辺でもないのに素早いことだ。
避けられたスピードスターは地面に当たり、砂ぼこりが舞う。
しかし砂ぼこりからはシードラの影が見えていた。
砂ぼこりが消えるのを待つ必要はなさそうだ。
「はがねのつばさ!」
「かげぶんしんよ!!」
砂ぼこりから見えていた影がいくつにも分かれる。
どれが本体化もわからないまま、アッシュは砂ぼこりに突っ込んでいった。
「…………」
砂ぼこりが晴れるが、シードラは影分身を保ったままこちらを睨みつけている。
アッシュは悔しそうに空中で身をひるがえしていた。
「シアン!みずのはどう!」
「飛び上がって避けて!」
「ふふ、距離をとってもあまり意味はないわよ」
「えっ?」
おユキちゃんが笑うと同時に、上空にいるアッシュが体勢を崩した。
「みずのはどうは水を通じて波動を打ち込む技!直撃を免れても、大気中の水分から波動が伝わるわ! まあ、もちろん直撃よりはましだけれど」
「……ネタまでバラしちゃって、余裕綽々って感じかな?」
すがすがしいまでのドヤ顔をありがとう。
ただしここからは私がドヤ顔をする時間です!
「アッシュ!あくのはどう!!」
「! 影分身をしているのを忘れたかしら?当たらなければどうってことないわよ!」
「ところがどっこい。当たるんだなあ、これが!」
「!?」
シードラに黒い塊が直撃すると同時に分身が消える。
本体にぶち当たったようだ。
「シアン!」
「アッシュ!そらをとぶ!!」
あくのはどうは相手をひるませる効果のある技。
ひるんだシードラは避けることもできずに、アッシュの鋼鉄の翼に吹っ飛ばされた。
「シードラ、戦闘不能!エアームドの勝ち!」
「シアン……! でも、どうして……あくのはどうを直撃したって言っても、たった二撃で……」
「アッシュは鋼の身体をもつポケモン。上からの急加速がプラスされてたし、壁にまで激突したからね」
「ダメージを見誤ってたのね……」
至極悔しそうなおユキちゃんはシードラにお礼を言って、元の立ち位置に戻った。
……次ってもしかして、あのウィンディが来る感じですか?
11/12/28
おユキちゃん強いです。強いんです。
だって廃人一歩手前が考えたキャラですもの。
ちなみになんで影分身を見破れたかっていうと、ライトがアッシュの翼に反射して、強い光がシアンの上に降り注いでたんですね。
それでできた影は影分身のほうが薄かったから、見分けがついたんです。
所詮は残像ってことですね。