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□悩みの種
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†悩みの種†
『アンタ、旅の者かい?』
季節は冬。
北に位置する柳の冬は厳しい。だが、それも北の芳や戴に比べればかなりましな方だ。
常世の最北端にある両国は、冬になると完全に廬は外界と隔絶され、その寒さは命をも脅かす。
柳はそこまで酷くない。現在も、馬車の外は雪が止んでいる状態だ。
ただあるのは、肌を刺すような冷たい外気だけ。
しかし、寒いことには変わりない。馬車の中の人々は暖を取るように寄り添って、車に揺られていた。
そんな折である。
乗客の男が、乗り合わせていた半獣の青年に尋ねたのだった。
『えぇ、まあそんな感じです』
『何処に行くんだい?芝草か?』
芝草とは柳の首都である。
『いえ。目的地は恭なんです。柳はそれまでの道中でして』
『そうか。それは難儀だな。こんな季節に北の国に来るなんて』
そう言うと男は口を閉ざした。
再び馬車の中に静寂が訪れた。
半獣の青年は窓の外に目をやる。
灰色の雲に覆われた空はどんよりと澱んでいて、閉塞感を覚える。
それはまるで、この国の現状を映しているかのようだ。
『おっ』
青年が声を漏らす。
空から粉雪が舞い落ちてきた。
馬車は轍を遺しながら進み続ける。