刹那の夢幻
□Bonnie Butterfly
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―キミは僕だけの花に
なって咲いていて。
零れてく蜜のような
愛をもっと
感情でずっと
キミをもっと感じたい―
光々と照り輝く
月が闇夜に浮かぶ夜。
鈴虫やら蛩(こおろぎ)やらが、心地よい響きを鳴らしているなか、異類の者と思われる美しい男が酒を嗜んでいた。
彼の名は殺生丸。
戦国一の大妖怪と呼ばれる殺生丸は、父のものであった西国の屋敷を伝領し、その当主となっているのだ。
ここは屋敷の西に位置する、廂(ひさし)の間。
平安貴族の住まうような優美な佇まいの中にある、ひっそりとした簡素な庭が、彼の父と母はお気に入りだった。
彼の母は風流心とは無縁だとみなされがちであるが、父亡き後、この屋敷で一番の「好き者」は彼女なのである。
『この心地よい虫たちの音でも聞いて、好き心でも養え。
こんな情を解さぬ朴念仁が、この犬一族の当主だとは情けなくて顔向けできぬわ。』
そう言われて仕方なしにここにいるわけで…。
"全く、母上も余計なことをなさる。"
そう思いつつ、ぐいっと盃の酒を飲み干した、ちょうどその時..
「殺生丸様、お酒を注げに参りました。」
几帳の向こうに
美しい娘がいた。
りんだ。
しずしずと上品に歩く様は良家の姫君そのもの。
緋に虹色の蝶があしらってある打掛を身に纏い、髪には翡翠の簪をつけている。
"よくぞここまで美しくなったものだ..."
と、彼は今や自分の妻となったりんを感慨深い目で魅入っていた。
「殺生丸様、そんなにじろじろみないで。
恥ずかしい...」
「いや、お前があまりにも美しくなったのでな。
最初出会った頃は、ただの小娘だったのに...
本当に綺麗だ...」
「そんなこと...。」
りんは頬を真っ赤にして、口籠もりながら、酒を注ぐ。
ただの惚れ気であるが、
殺生丸にとって、りんは自慢の妻なのである。
愛嬌ある性格、美しく可憐な容姿、特にその笑顔はまるで花がほころぶようだ。
どうにかしてしまいたい。逃げて堕ちていきたい。
"とことんこの殺生丸も堕ちたものだな。"
自嘲気味にそう思う。
いや、ちがう。
これは心地よい
堕落なのだ。
殺生丸は不意にりんの手を捕らえて、自らのほうに引き寄せた。
「きゃっ…―。」