web拍手お礼ss置き場

□A Shadow
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鏡よ、鏡…
お前が映し出すものはなにものぞ?



申し上げましょう
鏡が映し出すものは…

願望・野望・欲望の中に隠されたもう一つの自分、

決して拒む事なかれ。
それも「あなた」の一面なのだから…




A Shadow


洋間の一室で和は不思議そうに鏡を見ていた。


「どうしたんです、和さん。鏡に何か?」

「ああ、日織…別に大した事はないんだけど気になって」

「何がです?」

「何でこの鏡はこんなに高い位置にあるんだろうって…いくら日織の背が高くてもこんなに上に据付けてあったら鏡として仕えないよね?
もしかして日織って飛べたりするの?壁を歩くとか?あぁ、でも壁を歩けても鏡は使えないか。じゃあやっぱり…」



一人でぶつぶつと呟きながら考え込んでしまった和に、日織は首に手を当てて溜息交じりの笑みを浮かべる。
それから和の身体をひょいと持ち上げて強制的に肩車をする。


「やだ、日織!怖いよ!!」

「大丈夫ですって。絶対落としませんから。で、せっかくなんですから鏡覗いて見たらどうです?」

「え、あ…そっか」



丸めていた背筋をぐぐっと伸ばして和は鏡を覗きこんだ。



「何か面白いもんでも見えましたか?」

「…ううん、普通にランプが見えるくらい…ぁ!」

「分かりましたか?」

「分かった…この鏡ってランプの光を反射させてるんだよね?」

「ええ、その通りです」

「…日織は知ってたんだよね?」

「そりゃまぁ」

「だったら口で教えてくれてもいいのに…」

「こういうのは人に教えてもらうより、自分で気付きたくないですか?」

「…そうかも」

「でしょう?」

「……。」


急に黙り込んでしまった和を不思議に思って声を掛ける。


「今度はどうしたんです、和さん」

「あ、うん。その……ありがと、日織」


とても小さな声で告げられたお礼に日織は「どういたしまして」と微笑む。
そして…


「本当に和さんは素直な方なんですから……。
これじゃ悪戯しようにも胸が痛ぇじゃないですか」


そう嘆きに近い呟きをこぼす日織に和はきょとんとした顔で「日織?」と呼ぶ。


「何でもねぇでせすよ。それより降りますか?」

「うん、お願い」


離れていく温もりを惜しみながら日織は和を床におろす。


(まぁ、オレの目的は果たしましたから良しとしますか。後は『俺』に任せるとしましょうか…)


もう一つ溜息を吐くと日織は和にお願いをする。


「すみませんが、和さん。オレにお菓子くれません?」

「え、お菓子?日織が食べるの?」

「ええ、まぁ…」

「日織もお菓子とか食べるんだね、意外だな」


そう言いながら和はポケットを探る。
するとチョコレートの包みが出てきて、「はい」と日織に差し出す。



「……、もう一つ我がままを言っても?」

「何?僕に出来る事ならいいけど」

「和さんにしか出来ない事なんでお願いします」

「分かった。僕は何をすればいいの?」

「オレにそのチョコ食べさせてくれません?」

「え?」

「…やっぱりダメですか?」



普段の日織とは異なる自信なさけな心もとない表情に、和は「仕方ないなぁ」と包みを破いて、中身を出す。


「はい、あーん」

「あーん」


パキンと小気味良い音がし、その後には甘い味が口の中に広がった。


「美味しいです、和さん。オレもこれ位の甘い目にはあっても良いですよね?」

「…?」


日織の言葉を計りかねていると、日織の身体がだんだんと透明になりスッと消えてしまった。


「日織?」


和が幾度呼んでも日織は消えたままだった。
しばらく呆然と立ち尽くしたが、ふと手にあるチョコレートに目をやる。


「日織のばか…お菓子欲しいって言ったくせに、まだチョコ余ってるじゃん」


そう言って和は手にしていたチョコレートの残りを小さく一口だけ齧る。
ふんわりと咥内に甘い香りと味が広がる…はずだったのにこのチョコはしょっぱい味がした。


「嘘吐き、ちっとも美味しくなんかない…」


もう一口パキンと音を立ててチョコレートを齧った。
背後でドアが開く音がして振り返ると…


「あれ、和さん。珍しいですね、この部屋で何して…うぁ!」


部屋に入るなり和に抱きつかれ、日織は何が何だか分からないという顔をしながらも、和の身体をしっかりと抱き締めてやる。


「何だか知りませんが、俺はちゃんとここに居ますよ。和さんの傍にちゃんと…居ますから」


その言葉に和は「絶対だからね。さっきみたいに突然消えたりしたら許さないからね」と何度も何度も日織に言い聞かせた。



〜fin〜




コメント

たぬさんに「どんだけヘタレなの、この影日織は…」とえらい同情をかったお話になりました。


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