雨の白玉(短編小説置き場)
□天使と悪魔のはかりごと
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ピーーーーーンポーーーーーン…
「あ……お邪魔しますっ……って、あれ?壮一郎…くん?」
「何も……言うな、和……」
「何でお前はてめぇの家で執事服なんて着てんだよ?」
「人の頼みを無視すんなオッサン!!」
「あはは、やっぱり壮一郎くんも気に入ってたんだね執事服!」
「もって何だ!んなわきゃねーだろ、馬鹿筋肉!!」
「趣味ではないとすると……何でまた」
「着流し…これには深い事情が…」
「壮ちゃ〜〜ん☆お客様をいつまでも玄関先で待たせちゃダメでしょ?」
「み……三月……」
「ん??何?三月?」
「……いえ。申し訳ありません、三月お嬢様……」
「よろしい☆」
「えーと……壮一郎くん、こちら……妹、さん?」
「あ……ああ。とにかく……上がってくれ」
「お前……一晩でやつれたな」
そして、一同が集う応接間。
「…で、こいつが俺の命の恩人の…一柳和」
「…はじめまして」
妹達は和のことをジロジロと上から下まで観察している。
「……何か、イメージと違うな」
「双葉!?お前何言ってんだ!?」
「うん☆名探偵ってもっとしっかりした感じの人想像してた〜!」
「三月!」
「壮くんの方が……カッコいい」
「四季まで…!?お前ら、失礼だろ!」
「あ……ははは。いいんだよ、言われ慣れてる…から」
「ホント悪ぃ!和…こいつらブラコンで…」
「……成瀬さん?俺達のことは紹介してもらえないんですかぃ?」
「あ?ああ……残りのこいつらは、みんなあの館で一緒だった連中だ」
「酷いなあ、壮一郎くん」
「十把一絡げかよ」
「……どお?」
「んーー…私は…」
「やっぱり……が………」
「でも……も……」
「おい?お前達何ひそひそ話してるんだ?」
「何って…誰が壮一郎に一番相応しいかに決まってるだろ!?」
「なっ……!?」
「ほほう……。それはまた、どういうわけで…?」
すかさず着流しが食いついてくる。
「私達、壮ちゃんを他の女に盗られるなんて……絶対に、許せないんです!」
「うんうん。妹だから百歩譲って結婚は諦めるとしてもね…」
「男とくっついたら………納得できる」
「おいいっ!?おかしいだろ、それぇっ!?」
その場に居合わせた和以外の男達の口元と目がにやりと歪む。
「そういうことなら大部屋俳優としてベテランの域に達した俺なんか…オススメだぜ?」
「お…オッサン?」
「それなら僕だって、人気脚本家『帽子屋』として収入、知名度は申し分ないよ?それに身体だって鍛えてるから健康面も問題なし」
「お、おい…、筋肉…?」
「そんなら、俺は一戸建て土地付きですし……養子に入ることも問題ねえですし。長男の成瀬さんにはお買い得ですよ?」
「き……着流しまで、何言ってんだ……?」
「やっぱり、壮くん………モテモテ」
「四季ぃっ!?違うからなっ!兄ちゃんは断じて違うからな!?」
「何が違うんですか?その口で説明してやってくだせぇよ。
あの、成瀬さんを護った夜……あんたは、俺の前で服をはだけて……」
「ま……まてまてまてまて!着流し、何でそこであの話が出てくる!?」
「あ…そういえば僕もあの朝見たよ。壮一郎くん、シャツ羽織っただけだったね」
「いや、和…あれは、花札で……」
「な〜〜んだ、壮一郎もなんだかんだ言って……」
「ちがーーうっ!双葉ちがうんだ!俺は……っ!」
「俺は……?」
一瞬和の方を振り返ったが、そこから先が言えずただ、口をぱくぱくさせることしかできない。
「ぐっ………!」
「あ……その、じゃあ僕はこの辺で……」
「ああっ!!な、なごむうううぅっ!?」
「大丈夫…だよ?えと…僕、そういうのって…自由だと思うから……じゃ」
「ちがうんだああああっ!なごむうううううっ!!!」
「あら、もう行かれるの?今お茶を……」
「すみません。お邪魔しました」
…………パタン。
無情にも玄関の閉まる音が響き、がっくりと項垂れる。
「おやおや……和さん、帰っちまいましたねぇ」
「残念だったな」
「諦めなよ、壮一郎くん」
「お…お前らぁ…!わざとだな!?ハメやがったな!?」
「いやですねぇ、そんな人聞きの悪い…」
「全くだな」
「そんなわけないじゃないか」
「嘘つけえええっ!お前ら目が哂ってんだよおおお!!」
「…というわけで☆あなた方なら壮ちゃんを安心して任せられると意見がまとまりましたっ!」
「いや、待て三月っ!?まとまってねぇ!何一つまとまってねぇからな!?」
「壮くんを………よろしくお願いします」
「四季!?そんな深々と頭を下げて、花嫁の父親かっ!?」
「あはははは日織さんだっけ?仲良くしたいわー」
「気が合いそうですね…双葉さん」
「ちょ…そこおおおっ!!何黒い笑み浮かべてガッチリ握手してんだ!?」
「いい加減に観念しろ」
「オッッサン!!??」
「あらあら…壮ちゃんはいいお友達に囲まれて幸せね…」
「そうだな…はっはっは」
「も……もう嫌だああっこんな家族っっ!!」
こうして…。
壮一郎の『和を家族に紹介しよう大作戦』は、妹達と男達のはかりごとの前に脆くも散っていったのだった。
【完】