キリリクss

□純情エロチシズム
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そして、悪夢の幕が上がる。



お互いに気まずくよそよそしい空気が流れるなか数日が過ぎた。





「おはよう。椿くん」



廊下で眠たそうな和とすれ違う。

適当に声を掛けた時、和から馴染みのある煙草の匂いがして俺は足を止めた。




「な、和……」




「ん?何、椿くん?」




「あ、いや……。その、……眠そうだな」




「ああ、うん。昨夜は暗石さんの部屋でずっと起きてたから。
もう…暗石さんたらずっと怖い話ばっかりするんだもん…」




そう言いながら、目元に浮いた涙を拭う。

それは決してあくびだけの涙ではないのだろう。





……部屋にずっと籠もってるオッサンが。


和と一晩中、同じ部屋で起きていた。





その事実が、まるで消化できないものを飲み込んだように、重くずっしりと腹に溜まる。






………ズキン。





何だ。

胸がチクチクする。





「あー…そりゃ大変だったな。今からどっか行くのか?」




「うん。暗石さんが、寝る前にワイン取って来いって…」




「ワインか…。お前場所とか知ってんの?」




「う〜ん…。何となく、かな?」




「俺が…持って行ってやろうか?」




「え?」




和の声で、自分が無意識に何を言ったのか気付いた。





「あ…いや、ホラ!俺ここの館ん中なら大抵知ってるし!和も眠いだろ?早く帰って休めよ。
俺が、オッサンの好きそうなワイン見繕って届けておいてやるから…!」




…ああ。俺、何言ってるんだ?

何か喋れば喋るほどハマっていってる気がする。



しばらくそんな俺の顔を見ていた和は、やがてにっこりと笑った。




「ありがとう椿くん。じゃあ…お願いしちゃおうかな」



その言葉に、顔が綻ぶ。




「おう、任せとけ!」




俺は足取り軽く、地下のワインセラーに向かった。




叔父の公康が、ここに秘蔵のワインを隠しているのを知っている。

この際1本ぐらい貰ってもいいだろう。




うきうきと俺はワインを見比べる。



「やっぱりオッサンには赤だろ。そんでもって…そんなに甘口でない方が…」




じっくり吟味して1本のワインを選ぶと2階へと急ぐ。


身体に羽が生えたみたいに軽かった。



 
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