雨の名月(分岐ss置き場)
□賭の代償(前編)
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「ねぇ、日織。起きてよ」
ぼくは日織の肩を揺すって起こそうとする。
2、3度繰返すと、ようやく日織が目を覚ました。
「ああ、和さん。もうそんな時間ですかぃ…って何で涙目なんですか」
ぼくは悔しくて恥ずかしくて、日織の問掛けに応えれなかった。
そのかわり一言だけ呟くように言った。
「日織、仇をとってね」
一瞬、日織が驚いたような顔をしたけど、すぐにいつものような飄々てした表情に戻って
「承知しました」
と言ってくれた。
ぼくはこの時、自分のこの言葉にどれだけの威力があったのか知らなかった。
「和のやつ、のび太くんかよ。
布団に入っておやすみ3秒だぜ」
「まぁ、昼間は何かと動き回ってましたから、疲れも溜まってたんでしょうよ」
会話の合間合間に花札のパシッと置く音が響いている。
「ところで椿さんはこういった遊びは得意なんですかぃ?」
「ん?まぁそこそこに、って感じかな。
和はあれだな、見たまんまっつーか、はっきり言って才能ないな。
本気出す必要もなく、っていうかただ打ってるだけなのに向こうが勝手に負けてくれるみたいな」
そう言って椿は思い出したようにクスリと笑って目を細める。
それは何だか愛しい者を見るような笑顔だった。
そんな様子を見て日織の口元がわずかに上がった。