雨の名月(分岐ss置き場)
□賭の代償(その後)
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いつの間にか眠っていた和が目を覚ます。
窓辺に椿がシャツを羽織って立っていた。
「生き残っちまったな」
そう言って笑う彼が眩しかった。
そこへガチャリとドアを開けて日織が入ってくる。
「あ、和さん。おはようございます」
「あ、うん…おはよ…」
昨晩の事を思い出して、少し和は頬を赤らませる。
「…バカ…顔を反らせたいのは俺の方だからな、和」
少し拗ねた物言いで椿は外に目を向ける。
「まぁまぁ、これも全て椿さんを完全に守るための作戦だったんですから。無事に朝を迎えられたって事を祝いましょうや」
「ちょっと待て!どこが無事に朝を迎えたなんだ?
っていうか、そもそもアレが作戦か?
俺の貞操を奪うことが作戦なのか?そうなのか?」
「やですねぇ、椿さん。
昔からよく言うじゃねぇですか、【攻めは最大の防御】って」
「…。なんで俺が攻められてんだよ…」
「こっちであんなに激しく攻防戦を繰り広げてたら、敵だって迂闊に攻めて来れないでしょう?
立派な【防御】ですよ」
「……。矛盾を感じてるのは俺だけか?」
「いや、でも確かにそうだよね。昨日の状態じゃ犯人だって…」
「いや、だから納得できねぇだろ、フツーは!!」
「無事で良かったね、椿くん」
「爽やかに言ってくれてるが、無事じゃねーだろ?」
「いやいや、本当にご無事で何よりですよ」
「……。確信犯か…」
「そうそう、お風呂沸きましたよ」
「お風呂?」
「さすがに体、洗っておいた方がよくねぇですか?」
「あっ…そうだよね」
情事を思わせる体は、確かに一度湯に浸かってさっぱりさせておくべきだろうと、和も気付いた。
「お、俺はいいよ…」
「ダメですよ、椿さん」
「いや、でも…」
「早くしないと那須さんとかが来ちゃいますよ」
「で、でも…」
「そうだよ、椿くん一緒に入ろうよ」
「えっ、一緒…」
「だって、三人別々に入ってたら絶対、那須さん来ちゃうもん。まとめて入っちゃった方がいいでしょ」
「そうですね、それが良いですね。
と言う訳で行きましょうや」
「だ、だから無理だって」
「なんで?」
「なんでですかぃ?」
二人から同時に聞かれて、顔を真っ赤して椿は答える。
「か、体が動かせない…き、昨日のが、その…」
「あぁ、昨日は結局、かなり無理させちまいましたからね」
「だ、だから…」
「それなら俺が担いであげますよ」
「…!?」
「それで万事解決ですね。じゃ、行きましょう」
椿が思い切り抵抗できないのを知って、日織は椿を肩に抱える。
「わっ、バカ。やめろ!」
「お姫様だっこの方が良かったですか?」
「頼むからやめてくれ…」
「じゃ、僕、先に行ってタオルとか用意しておくね」
「あ、悪いですね。和さん、よろしく頼みます」
「じゃ、お風呂場で集合だね」
椿と日織を置いて、さっさと和は風呂場に向かう。