雨の名月(分岐ss置き場)
□分岐3(双子編)
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ガラッと風呂場の引き戸が空いた。
入ってきたのは…
「えっ…あ!……」
湯気の向こうに見えるのは肩に掛かる髪をアップにさせ、白く透き通る柔肌をタオルを真っ直ぐに垂らして隠す少女の姿…
「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」
「………。」
和は盛大に叫んで湯船に沈み込む。
「な、何やの?今の叫び声…」
後に続いてもう一つ同じ声が風呂場を覗き込む。
「お兄さん!!」
湯船に茹でタコ状態で沈み込む和を発見した双子の片割れが慌てて和に駆けつける。
「ちょ、お兄さん。何でここにおんの?
ってか…うちのお姉ちゃんに何かしたん??
返答次第では…許さへん…」
「ぼ、僕は…その…あ、あの…」
パニック状態で話せない和の肩を掴んで容赦なく揺らす。
「しいちゃんストップ…」
入り口でフリーズしていた姉が鈴奈の肩に手を添え、止める。
「お、お姉ちゃん…」
「分かってて入ったからお兄さん、悪くないよ?」
「へ?」
「え?」
二人が固まる。
「お風呂場でドッキドキ☆ハプニング…やってみたかってん」
「「なっ…」」
「思った通り、ええ反応…そして大成功…」
固まる二人を余所に満面の笑みを浮かべる静奈。
「な、ななな…で、でも…僕だって男だし、そんな…」
「そうやで!お姉ちゃん。
こんな小学生みたいな無邪気で頼りない顔しとっても、一応は男なんよ。しかも成人男性!
迂闊に嫁入り前の女性が肌なんぞ見せたらあかん!!
何かあったらどうすんの??」
「ふふ…お兄さんなら大丈夫やもん」
「何でそんな事が…」
「言えるもん…うち…」
ちらりと静奈が和を見る。
「聞いたから…昨日の夜…激しいの…」
「へっ?」
「……っ!!」
「しいちゃんにはまだ早い…ね、お兄さん」
「〜〜っ!」
「ちょ、お姉ちゃん。僕ら双子やん。
遅いも早いも一緒に生まれてきてるんやからないやん!!
ってか、お兄さん。
勝手に溺れんで。
僕、人命救助なんて出来へんからな!」
「しいちゃん、口調…」
「あ…って、今はそれどころじゃ…」
「役者たるもの何があっても平常心…」
「せやけど、今は…」
「問答無用、言い訳不要…」
「う…ごめんなさい…」
「うん、しいちゃん良い子。良い子」
「……。」
頭を撫でられて、鈴奈が顔を赤らめる。
「うち身体冷えた…お風呂、入ってええ?」
「あかん!」
「〜〜っ!」
和んでいたのが、ハッとなって我に返る。
鈴奈が断固反対と、意義を申し立てる。
子犬のようにきゃんきゃん騒ぐ鈴奈に慌てて、和が提案をする。
「ま、まって…僕、もう上がるから…」
「だめ!」
その提案を強く却下するのは静奈。
「「な、なんで??」」
「一緒にはいろ?
それとも…うちと一緒はイヤ?」
「それは…」
和は何と反応して良いか分からず、ただただ顔を赤らめる。
「お姉ちゃん…」
心底困った顔で鈴奈が姉を呼ぶ。
「心配ならしぃちゃんも一緒にはいろ?」
「「え?」」
「うん、それが良い…ね?」
「いや…『ね?』じゃなくてね、静ちゃん…」
「お兄さん、昨日のこと…鈴奈に言ってもええ?
そしたら、きっと納得してくれるよ?」
「だ、だめぇぇ!」
赤面で叫ぶ和を不思議そうな顔で見つめる鈴奈。
「??」
で、結局…
「こうなるんやね…」
銭湯の様に広いのお風呂に三人仲良く並んで浸かる。
「……。」
ぴゅっ
ぴゅっ
「……。」
無言の二人を余所に、静奈は水鉄砲で遊んでいる。
曲線を描いて飛ぶお湯を楽しそうに操る。
「お兄さん…」
「はい…」
「ここでの事は…」
「何があっても言いません…」
「助かるわ…」
「いや…あ、でも…」
「何やの?」
「何で鈴奈…くん?」
「くん、つけんで…」
「鈴奈ちゃん…」
「とりあえず、ここに居る間はそれで…」
「わかった。で、何で…
女装してんの?」
「それ、聞く?
今ここで…」
「あ、ごめ…」
「じゃ、うちも聞くけど…『昨日の夜』って何のこと?」
「そ、それは…」
「ちなみに一つ言うておくけど、僕…うちのは趣味じゃないからね。
そこ重要やから勘違いせんといてな」
「う、うん。分かった…」