キリリクss

□成瀬壮一郎、最初の受難
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何だか夢を見ていた気がする…



どこかお伽話のような。




そう滅茶苦茶な展開に巻き込まれて…





自分が「自分」でなくなる夢…




















眩しい日差しで目が覚めた。


ふかふかの布団から出るのが気持ちよくて、ちょっと勿体ない。


でも、今日は人と会う約束があった。


だから、起きなければ…






ぐっと四肢に力を入れて伸びる。

背筋が十分に伸びると気持ちが良い。




さて、起きるか…




??




起きあがろうとした自分の手を見て驚く。


手が…


手が…




毛むくじゃら!!

っていうか、に、に…肉球!!






軽いパニックに陥って、挙動不審に辺りをキョロキョロ見回すと、
窓ガラスが目に留まる。

いや、正確にはそのガラスに映った自分の姿に呆然となっただけのこと。

でも、それも無理はない。





だって、





目が覚めたら、










「吾輩は猫である」状態なんだから!!






「に、にゃ、にゃにゃにゃぁぁぁ!」
(な、な、何なんだ〜〜!)


手足と腹部分が白い毛で、頭と背中は黒と灰色が混ざったしま模様の猫が、目の前にいる。



思わず、ガラスに手を付けてみる。


動きは自分とシンクロしている…
当たり前か、本人なんだし…

いや、ちょっと待て!

俺、猫だったっけ?




いや、確かに昨日までは人間の姿だったぞ。

っていうか、役者だし…


いや、最近はペットタレントっていうのもアリだし…


いやいや、まずは落ち着け、自分。



そもそも、俺は人間だったか?
それとも最初から猫だったのか?





うわぁ、そういう基本的な情報があやふやだ…








で、でも…

今日、人と会う約束があるって事は覚えてるぞ。



相手は確か…







「日織」だ…。




このままじゃ会いに行けないじゃねーか!!

どうしよう…

どうやったらこれが「俺」だって気付いてもらえる??




ベッドの中でキラリと光ものが目に入った。

身軽にベッドに飛び乗り、光を覗き込むと、ブレスレットが日差しに反射して光っていた。

プレート部分には「H to S」の文字が入っている。


「日織から壮一郎へ」


そう、刻印されたブレスレット。



「にゃぁぁ…」
(日織…)



ブレスレットにスリっと身体を擦りつける。


日織に会いたい…



でも…








そうだ、何か俺だってものを持って行けば、俺が「壮一郎」だと気付いてくれるかも知れない。




いそいそとブレスレットを口にくわえる。

しかし、金属製のそれは思いの外重く、口で運ぶにもかなりの根気がいる。


しばらく不服そうに、目を尖らせてブレスを見つめる。










今度はブレスレットの輪っか部分に何とか頭をぐいぐいと押し込め、首に掛けようとする。


人間のような手先を持たない猫の手は思うように動かせない。


何とか試行錯誤の末、ブレスレットを首に掛けることに成功!


しかし重い…







「ぶにゃぁぁ…」
(仕方ねぇか…)



そう一人…一匹呟いて、部屋から出ようとする。



更なる難関が玄関先に立ちふさがっていた。



どうやってドアを開ける?





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