キリリクss
□鉛筆と消しゴムの永遠のテーマ
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館から生還した後、僕は生活費を稼ぐためにバイト探しを始めた。
そんな時、大学の先輩から塾講師の短期バイトの話をもらった。
人にものを教えるのはあまり得意じゃなかったけど、時給の良さに負けて引き受ける事にした。
最初は緊張したものの、2・3回教卓に立つうちに慣れた。
マニュアル通りに進めているだけなのに、意外と生徒達からも評判が良く、週3日勤務だったのが週5日勤務に変わった。
稼げるのは嬉しいけど…
せっかく椿くんが遊びに誘ってくれても、なかなか日程が合わなくなったのは少し寂しい…
今日も本当は二人で映画に行くはずだったのに、急遽代理で教卓に立つ事になった。
椿くんは
「仕事じゃ仕方ねぇよな…ま、頑張って勉強教えて来いよ!」
と言ってくれる。
こうして仕事に理解を示してくれて、それどころか励ましてくれる彼に、どれだけ救われているか…
事務所に寄って今日の授業内容を確認し、指導マニュアルを確認する。
今日は抜打ちで小テストをする予定だったので、その準備もする。
始業まであと10分…。
何となく椿くんの声が聞きたくて、携帯を手にする。
「あ、一柳先生!」
ベテラン講師の栗田に呼ばれて、慌てて携帯をしまう。
「は、はい!」
「夏期限定でやってる一日体験学習に今日、生徒が一人と保護者が来るんで、宜しくお願いします」
「はぁ…」
「大丈夫ですよ。いつも通りに指導するだけで良いですから、そう緊張なさらずに、ね?」
「はい…頑張ります…」
始業時間…
いつもどおり、受け持ちのクラスに入って行く。
「時間ですので、授業を始めます。
それじゃテキストの…」
それとなく教室内を見渡す。
そして固まる。
見慣れた、というかよく知った顔が二つ増えている。