キリリクss

□病は気から
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本当に久しぶりに風邪を引いた。




身体を鍛え始めて以来、寝込んだことなんてなかったのに。


日々移ろいゆく夏の気配を感じながら秋の夜風に当たりすぎたのがいけなかったのか。








妙に重たい身体と、ふわふわとした感覚が一緒にやってきてまともに起き上がることもできない。






自分もやっぱり人間なんだと妙なおかしさが込み上げてくる。










「……っく、くっくく…」




額に手を当ててしばらく笑う。








「相当熱…あるみてぇだな」






普段ならあり得ない自分の行動に、身体からの非常サインを感じる。







「和さんに……電話、しねぇと…」






汗で張り付く髪を掻きあげながら、身体を捻って枕元の携帯に手を伸ばす。






今日は和さんと会う約束をしていた。



流石に動けないこの状態では、行くことができない。
早めに断っておく方がいいだろう。







「…………もしもし、日織?」





数回のコールの後、耳に心地よい声が響く。


そのままごろりと天井を見上げる。


動いたことでまた熱があがったようだ。







「和さん……すいませんが、今日の約束……日をずらしてもらってもいいですかね?」







「えっ…?うん、それは構わないけど…どうかしたの?」






「ええ…ちょっと…今日は行けそうになくて……すみませんね…」






なるべく、普段どおりの声で。

この人が知ったら絶対に家に来ようとするだろう。

そんなことしたら、絶対に伝染っちまう。







「………わかった」





「すいません……また、連絡します」






それだけ言って、電話を切るとぱたりと携帯を置いた。






起きて何か食べて…それで薬を飲めばすぐに治るだろう。

わかっているのに、食欲はないし、動こうとすると頭がぐるぐると回る。






…やべぇな。





俺一人が住むこの家は静まり返っていて。


時折、みしりと板が鳴る以外は静寂に包まれている。


病は気からとよく言うが。


身体が弱るとこうも人間は弱くなるものかと思い知らされる。


まるで世界に自分だけが取り残されたようで…。



視界が歪む。


きっと目が熱いのは熱のせい。





そっと目を閉じて自分の呼吸に耳を澄ます。



浅く早い呼吸を繰り返しながらうとうととまどろんでいく。






…少しだけ、このまま…眠ろう


……起きたら……なに、か…たべて……くす……り……を














 
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