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□コスプレ〜メイド編〜
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那須さん編
「本当にこの格好のまま出歩くの?」
「もちろん」
「それ以外の服着たら…呪う…」
「…わ、分かったから。
そんな物騒な事言わないでね、ね?」
「物わかりの良いお兄さん、うち好きや」
ふふふっ、と静奈が上ご機嫌な微笑みを浮かべる。
結局、静奈と鈴奈に連れられて、メイド姿のまま、館内を捜索するはめになる…
一柳和。
21歳、まごう事なき成人男性…
「それにしても、本当にメイドさんはこんな短いスカートを履いて…」
「そんな訳ないやん。
正当派メイド服はやっぱり質素にロングワンピやん」
「じゃ、じゃあ何で僕のはこんなに短いの??」
和は少しでも屈むとあらぬモノが見えてしまいそうな、スカートの裾を必死に押さえながら歩く。
「それは趣味用やから…」
「趣味用?」
「…清い…」
「うん、清いね…」
双子が目を合わせて頷き合う。
「「お兄さん…」」
「な、何?」
「「うちらが絶対に守ったるから安心して」」
「え?」
いまいち、納得出来ていない和を余所に、スタスタと歩いていく双子。
何かブツブツ声が聞こえる。
「……着流しさんは…本物やから…執事さん…やし、那須さんは…じゃない?暗石さんは…だと思う…けど……」
何の話?
って聞きたいけど…
怖くて聞けない!!
とりあえず、椿くんは娯楽室に居るだろう、という当たりを点けて僕達は1階に向かった。
眼鏡を奪われたままで、いまいち視界がはっきりしない。
階段を下りるときも、手摺りに掴まってないと段を踏み外しそうだった。
「お兄さん、危ないから眼鏡返そうか?階段だけ」
「階段限定?
でも、流石に危ないから返してもらおうかな…」
手を伸ばした時、階段下から大声が上がった。
「あれ?見かけない子が居る!」
「な、那須さんっ!」
同じ男性として女装姿を見せるのは恥ずかしい、と思った瞬間、大きく体が傾いた。
慣れないヒールの靴に視界の悪い目、おまけに足元が不安定な階段。
言わずもがな、踏み外して転げ落ちる…
痛みを覚悟して目をギュッと閉じる。
けれど…
ふわりとした浮遊感のあと、待てとも衝撃が来ない。
恐る恐る目を開けると、正面には心配そうに覗き込む那須さんの顔があった。
「大丈夫、君…どっか怪我してない?」
「那須さん…どうして…」
「すごかった…那須さんマッハ」
「お兄さんが落ちるのを受け止めるのにすごいスピードで間合い詰めよった!」
双子が心底感心しているなか、和は痛みはないものの、「落ちた」という衝撃から、まだ立ち直れておらず呆然と、那須を見つめていた。
「ちゃんと受け止めたつもりだったんだけど…大丈夫?
何処が痛いの?
脚?腕?」
那須は和をお姫様抱っこした状態で、片手を動かす。
「ぁっ…!!」
怪我を心配した那須がソフトタッチで和の脚に触れる。
くすぐったさとゾクリとした感覚が身体を巡って、思わず声が漏れた。
自分の声に恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。
「ど、どうしたの?
急に赤くなって…頭とか打ってた??」
那須が慌てて和の額に手を添える。
「ち、違います。那須さん。その…」
「あれ、その声…和くん??」
「え、…気付いてなかったんですか?」
「うん。そっか、和くんじゃなくて『和ちゃん』だったんだね」
「え?」
「ごめんね、男の子だと思ってて…」
「あ、いや…あの、その…那須さん?」
もう完全に那須は『和=女の子』だとインプットしてしまったらしく、その後、何を言っても話が通じなくなってしまった。
「静ちゃん、鈴ちゃん…助けてよ〜〜」
「う〜ん…そろそろタイムリミット?」
「そうやね。回収しよか…」
「…??
何の話?」
「那須さん。
そろそろ、うちらの和ちゃん返して?」
「え、鈴ちゃん?和ちゃんって…」
「あ、ごめんね。
女の子なのにいつまでも抱いてて。
和ちゃん、下すよ?」
「やっぱり那須さんはジェントルマン…」
「いや、そこの確認じゃなくて、僕の性別を…」
「実は和ちゃん、男装癖があるんよ。
せやから、つい言葉づかいとか人称が『男言葉』になってまうけど、本当は『女の子』やから」
「意外とお転婆さんなんだね、和ちゃんって」
ニコニコ笑いながら顔を覗き込んでくる無垢な那須さん。
「う゛っ…」
誤解を解きたいのはやまやまだけれど…
「女の子なんだから、あんまり危ないことしちゃダメだよ。
何かあったら、すぐに僕に言ってね。
僕が、守ってあげるから」
爽やかな笑顔でそう告げられ、男なのに…ときめいてしまう。
「あ、やっぱり顔が赤いよ。
どっか打っちゃった?
ごめんね、ちゃんと守れなくて…」
明らかに悲しげな顔をする那須さんに
「い、いえ…大丈夫ですから。
っていうか、助けて頂いて、有難うございました」
おずおずと頭を下げる。
「お礼なんか良いのに。
男たるもの、女の子は守って当然だから。
気にしないで、ね?」
「う…」
どうしちゃったんだろ…
僕、動悸が激しくて那須さんの顔がまともに見れない…
「はい、そこまで」
静奈と鈴奈が二人の間に割り込む。
「和ちゃんは男性に対する免疫ないから、あんまり近寄ったらあかん」
「これ以上は人畜無害な那須さんでもあかん…」
「ちょ、鈴ちゃん?静ちゃん??」
「それじゃ、うちらお散歩中やから」
「…じゃ…」
二人に脇を固められ、なかば引きずられるように階段から離れる。
「ね、ねぇ…僕の誤解、那須さんちゃんと修正してくれるかな?」
「さ、次…行こう」
「そうやね」
「え?え??
次って何?」
和の受難はまだまだ続く…