季節小説(ss)

□夏祭り
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夏の夜が、並んで吊された提灯と人の熱気で浮かび上がる。


遠くから聞こえる祭囃子と楽しげな賑わいは、自然と心を踊らせる。



「ちょっと遅れちゃった…。」




僕は賑わう人並みに埋もれながら神社を目指す。


「…みんな、もう来てるよね…。」



日織から縁日に行かないかと誘われて、二つ返事でOKした。

あの館のメンバーが集合すると聞いたから。




また、みんなに会える…。



自然と顔が綻んだ。




「あれ…?あそこだけ、人垣ができてる。…なんだろう?」



モーゼのようにその一角だけ人並みが割れ、丸い輪ができている。



人の肩越しに覗き込んでみると、見慣れた顔が勢揃いしていた。





「遅ぇな…和のやつ、違う神社に行ってんじゃねーの?」

そわそわと周りを気にする椿くんは、白い浴衣をキリッと着こなしている。


「まあまあ…成瀬さん。もうちょっと待ってみましょうや。」

いつもの着流し姿の日織は誰よりも立ち居振る舞いが美しい。


「僕、探してこよっか?」

肩口まで紺色の甚平の袖をまくり上げた那須さんは鍛えられた腕を組んで考えている。


「やめろ!いいから筋肉はじっとしてろ!」


「…和たん、痴漢にあってたりして…」

静奈ちゃんと鈴奈ちゃんは揃いの浴衣を着て、髪を結い上げている。


「僕、助けに行ってくるよ!」


「ちょ…違うから!行かんでええよ!お姉ちゃん、煽らんといて!」


「…ちっ。おい、着流し…電話してみろ」

黒い浴衣に身を包んだ暗石さんは携帯灰皿にタバコを押し付ける。


「旦那も心配性ですねぇ…」



しばらくすると、ぼくの懐から携帯の着メロが響く。




みんなが一斉にこっちを振り返った。



「あ………。」



「なんだよ、和。いるなら来いよ。」


「和くん!痴漢は!?無事かい?」


「…どしたん?和たん」




…なんてゆーか。



みんな…やっぱり役者さんなんだな。


すごく華があって、入り込めないオーラがある。美形揃いだし、それぞれ浴衣がすごく様になっていた。


人並みが割れるのも頷ける。
遠巻きにみんな眺め、熱い視線を送っているひともいた。





「あ…ご、ごめん。」



「どうした、坊主。早く来い。」


暗石さんが僕の頭をくしゃっと撫でる。


自然と僕を中心とした輪ができた。


改めて…僕ってすごい人達と知り合いなんだなぁと実感した。




「じゃ…和さんも来ましたし、行きましょうか。」


日織がそっと僕の肩を押す。



みんなと歩くと自然と人並みが避けていく。




……………すごい。




こんな夏祭りは初めてだった。



 
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