季節小説(ss)

□野火の迎え
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もうすぐ、夏も折り返しを迎えようとしている…。




「百目鬼の分際で人の事こき使いやがって…」



そう文句を言いながら何をしているかと言えば、せっせとおにぎりを作っている。


具材は5種類。
梅干しに昆布、鮭に鱈子、シーチキン。


朝からずっと握り続けている。


侑子さんに借りたお重箱には既に色とりどりのお惣菜が詰め込まれている。


下段には寒天を使ったゼリーとうさ耳リンゴ、オレンジが冷やされて詰め込まれ
ている。


でも今回、一番満足しているのは稲荷寿司だった。

油揚げの味付けが絶妙だ…

甘過ぎず濃過ぎず、中のかやくご飯だって上出来だと自分では思う。






『四月一日!今日はどっか行くのか?』



黒くて大福のような感触を持つ不思議な生命体、モコナが話しかけて来る。



「今日、お盆だろ。百目鬼の阿呆に寺の手伝い頼まれてさ〜
ま、ひまわりちゃんも来るって言うから仕方なく俺も手伝いをしてやるんだ」



『ふぅ〜ん。
百目鬼の所に行くから、四月一日は朝から機嫌が良いんだな』



それまでせっせと動かしていた手がピタリととまる。



「ど、百目鬼なんかどうでも良いんだよ!
俺はひまわりちゃんが…」




『四月一日、顔赤いぞ〜』



「だぁ〜っっ!!!
うるさい、モコナ!」





照れ隠しにわたわたと慌てる四月一日をからかって遊んでいると、主が姿を現す。


着崩した着物の裾を引きずり、まるで花魁の様な妖しい雰囲気を醸す、主…



「朝から楽しそうね」


「楽しんでませんよ!」
『おぅ!楽しいぞ♪』



侑子さんが何もかもを見透かした様な顔で微笑むから、思わず目を逸す…



「今日は色んなお客様が来そうね…」



「えっ?」



「ま、楽しんで来なさい…新しい出会いは新しい未来を作る第一歩よ…」






侑子さんの言葉には不思議な力がある。



全然、理解出来ないのに何となく納得してしまう…











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