季節小説(ss)
□それぞれの聖夜(光×成編)
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「もうすぐクリスマスだな〜。今年もツリー出さずに終わりそうだな」
「そうだね。何か買ってこようか?」
「…いいや。小っこいやつ飾っても逆に寂しいだろ?」
「…そう?あ、壮一郎くん、クリスマスって予定どうなってる?」
いつものように朝の食卓でコーヒーを啜る。
新聞に目を通しながら、何気なく聞かれた質問に内心ぎくりと固まった。
「あ…ああ。その日は仕事が入ってて…。クリスマス特番の生放送にゲストで呼ばれてるんだ」
「本当に?すごいじゃない」
ハラハラしながら伝えた事実に、笑顔で返されて拍子抜けする。
こっちが、折角気ぃ使ったってのにこの野郎。人の気も知らねぇで…。
「よかった。僕もその日は仕事があるんだ」
続けて言われた言葉に目を剥いた。
「はぁ…!?仕事?…何のだよ」
こっちも仕事で一緒に過ごせないので、責める道理ではないのは判ってる。
それでも、衛が俺を最優先に予定を組んでいるもんだとばかり思っていたので、それはそれでちょっとショックだった。
「ああ…『帽子屋』の方じゃなくてね。個人的にちょっと…」
「個人的?って…、役者のオファーか?」
「う〜ん。これ以上は言えないんだ…ごめんね?」
にこりと微笑んで新聞紙をたたむ。
別にいいけどさ。俺だって仕事だし。
言いたくないことまで無理に聞くつもりもねぇよ。
でも……何だか、面白くねぇ…。
幾分か冷めて苦くなったコーヒーを啜る。
「壮一郎くん、もう時間じゃない?」
「あ……、やべ…!」
時計を見て、慌てて飲み干し立ち上がった。
「はい、気をつけてね。いってらっしゃい」
いつものように玄関まで付いて来た衛からコートを受け取って羽織る。
いつもと変わらぬ笑顔から、仏頂面で鞄を受け取った。
「じゃあな!いってくる!」
そして、ぷいと玄関を出た。
…少し、大人気なかったかもしれない。
バタリと閉まった音を聞いて少し冷静になった。
衛だって衛の仕事があるんだし。
仕事と俺とどっちが大事かなんて愚問を投げかけたいわけじゃない。
…今夜は、早く帰って何か暖かいもんでも作ってやろう。
そう思いながら、俺はエントランス前に停車しているマネージャーの車に乗った。