季節小説(ss)
□7月7日に待ち合わせ
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『和さん、今度の火曜日の夜…空いてますか?』
久しぶりに掛かってきた年上の友人からの電話は唐突な言葉から始まった。
もうすぐあの夏から1年が経とうとしている。
僕はこのちょっと変わった雰囲気の、やたらと世話好きで飄々とした年上の友人といる時間を気に入っていた。
着かず離れず、ちょうどよい距離感。
僕は頭の中のカレンダーを確認した後、了承の意を告げた。
途端に電話口からはほっと気の緩んだ気配が伝わってくる。
「変な日織。どうしたの急に…?」
『いやあね。その日、俺ん家の近くで祭りがあるんでよかったら和さん行かねえかと思って…』
きっといつものように眉尻を下げて首の後ろに手を当てているんだろう。
彼の何気ないしぐさの一つ一つが電話口から伝わる気配でわかった。
「そうなんだ。じゃあ浴衣とか用意したほうがいいかな」
『なんなら俺が昔着てたやつ貸しましょうか?』
「それ、絶対子供の頃のだろ。いいようちにもあるから」
僕の身長に合わせた浴衣なら、きっと日織が中学生ぐらいのものに違いない。
そう想像すると自然と不機嫌な声が出た。
受話器の向こうからも忍び笑いが聞こえてくる。
『じゃあ楽しみにしてますね』
そして、電話は切れた。
僕は赤いサインペンを手にカレンダーに印を付けようとして気づいた。
「あ……、今度の火曜日って七夕なんだ」