季節小説(ss)
□+銀河鉄道の夜+
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これらわたくしのはなしは、みんな林や野原や鉄道路線やらで、虹や月明かりからもらってきたのです…
〜宮沢賢治〜
コトン
カタン
コトン…
瞼の裏の暗闇に閃光が走ったような強い刺激に、和は意識を取り戻しました。
「あれ…ここは?」
目を覚ました和は見た事もない鉄道列車の中に居ました。
ゴトゴトと車体が揺れ、和の身体もそれに合わせ、揺れています。
夜を駆ける鉄道には小さな黄色い車内灯がほうほうと点り、蒼い天鵞絨(びろうど)が貼られた腰掛は艶やかに、鈍色の壁には真鍮の大きなぼたんが二つ鈍く光っているのでした。
その腰掛の一つに和は座り、窓の外の鴉の濡羽色の空を眺めておりました。
「僕は…」
呟き、列車の内に視線を走らせますが、辺りはがらんとしており、和以外には誰も姿がありませんでした。
今一度、己の居場所を探ろうと和は窓の外へと目を凝らします。
すると肩に手が乗せられ、和はばねのように身体を跳ね上がらせ、振り向きました。
振り向いた先に立っていたのは、水浅葱色の着物を召した背の高い、若い男の人でした。
「驚かせてしまいましたか?」
目を細めて笑うその人を見て、和は顔やら胸やらがじんじんぽかぽかと熱くなるのを感じました。
けれど突然声を掛けられたことで、心の中がいっぱいになって話せずにいました。
「座ってもいいですかぃ?」
鉄道の走る音が消えて、彼の声だけが和に響いて届いきます。
「あ、あの…その、どうぞ」
和がたどたどしく答えると、彼は「ありがとうございます」と、和の座る前の席に腰掛けました。