雨の白玉(短編小説置き場)
□緊急事態
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…遠くで猫の鳴き声が聞こえる。
「…猫は斑井さん」
静奈ちゃんの呟く声が木霊する。
「斑井さん!」
斑井さんの後ろ姿に駆け寄るが、ドサリとスローモーションで倒れた斑井さんは驚愕に目を見開き、胸を血で染めていた。
「…っっ!?」
飛び起きると、心臓の音がこめかみでズキズキと飛び跳ねている。
体を暑苦しい汗が包み、ぐったりと重い。
「夢…?」
ふーっと肺の中に溜まった空気を吐き出す。
ここ数日の極限状態で、ゆっくりと休まった時はない。
偶然迷い込んだ洋館はさらなる恐怖の始まりだった。
それまで親しくしてくれていた人が朝には冷たく、もの言わぬ死体となって発見される。
しかもその標的は予告される。まだこの惨劇は終わらない…。
犯人からの殺意がひしひしと伝わってくる。
今では賑やかだったメンバーも半分ほどになってしまっていた。
呼吸が整ってきたのを見計らって布団をめくり、起きようとしたところで身体の変化に気付いた。
ジーンズの前が硬く張り詰めている。
「…………。」
深い溜め息が出る。
この非常事態だっていうのに僕って奴は…。
考えてみれば、この館に来てから数日。非日常すぎてもちろんそんな事ができるわけがない。
でも僕の身体は限界を訴えているようだ。
さっきよりもさらに深い溜め息が出た。
部屋の外の気配は静かだ。
人が減ってきているので当然だけど、あまり外をうろつく気にもなれないのだろう。
日織のベッドはもう空になっていて、布団も綺麗に整えられている。
今のうちなら……。
猛ってしまっている自分を治めておかないと、明日にはこっそりと下着を洗わないといけなくなるかもしれない。
「〜〜〜っ!」
意を決して、ボタンを外してジッパーを下ろす。
「…ん……はぁ」
ひんやりとした空気に晒されたモノを握り込む。
下から上へ擦り上げているうちに、先端から蜜が溢れてくる。
さらにその蜜を絡めとりながら、丹念に攻め立てるがなかなか達しない。
こんな環境の中じゃあ無理もない…。
でも早く終わらせないと…。
何かないかと見渡す先に日織のベッドがある。
他の人の匂いを感じながらだったら…。
ゆっくりと日織のベッドに横になってみる。
枕から日織の匂いがする…
急に硬度を取り戻したモノを包み込み、枕に顔を埋めて深く息を吸う。
「んっ、…日織」
ますます熱く張り詰めてくる。日織の匂いも、表情も、しなやかな身体も、長い指も、全てが僕を包んでいる気がする。
「あっ…、くっ…日織ぃ…。も……もう…」
イキかけたその時…
「和さん、起き…」
扉の音と共に日織の顔と目が合う。
「……………。」
「…………。」
空気がひび割れる音が僕の中から聞こえた。
終わった……僕の人生。
日織は一瞬だけ目を丸くしたが、今はいつもの表情に戻って扉の内に身体を滑り込ませると静かに扉を閉めた。
「あ…、あの、これは……。ち、ちがうんだ日織」
ゆっくりと日織が近付いてくる。