雨の白玉(短編小説置き場)
□小休止
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彼が倒れこむと同時に、シーツの上にさらりと髪が広がった。
綺麗だな、と思って柔らかい髪を掬うようにうなじへ手を差し入れた。
しなやかで、ハリのある触り心地。
それは彼が持つ内側からの輝きを彷彿とさせる。
「んっ……」
力なく投げ出された伸びやかな手足がぴくりと反応して震えた。
先程までの行為の余韻で、彼はまだ呼吸も乱れたままぐったりとしている。
いつもこの状態になると、全ての刺激が快感へと変わり彼を追い立てることを僕は知っている。
髪を梳くことですら、彼の肌を震わせるには十分だろう。
地肌はしっとりと汗ばんでいて、体温も高い。
そのまま髪を梳いていると、彼はぼんやりと瞳を開けた。
「大丈夫…?」
その言葉が彼の脳へ染み込むまで多少時間がかかったが、やがて自分の状態とそこへ至る情事を思い出したのか。
瞳の色を取り戻すと、上気した頬をさらに染めて不機嫌そうに顔を逸らした。
二人分の汗と体液を吸い込んだシーツは、しっとりと重く肌へ張り付く。
その上で惜しげもなく、瑞々しい裸体を晒していた年若い僕の恋人は、今更のようにその身体をうつぶせて枕に顔を埋める。
だんだんと、その耳までもが赤く染まっていくのが見えた。
僕はその背中に覆い被さるように後ろから抱きつき、形のよい耳のカーブに沿って歯を立てた。
「んっ…!ちょ、やめろって…!汗……かいてるし」
口では制止の言葉を吐きながらも、彼の身体は持ち主を裏切っている。
枕をぎゅっと握ったまま僕に足を絡め、腰を震わせている姿はこれ以上ないくらいに官能的に映った。
「壮一郎くん………美味しそう」
動けない彼の背中に顔を埋めると、背骨の窪みに舌を這わせた。
「ああっ……!ん、…やめっ…!」
場所によって様々に変わる反応を愉しみながらあちこちに舌を這わせて肩甲骨に歯を立てた時、それまで官能の波に翻弄されていた彼は思い出したように顔を上げて振り向いた。
「おいっ…!?明日俺…撮影あるんだから…そんな、見えるとこに跡つけんなよ」
首だけを捻って、恨みがましい視線を寄越す。
「こないだだって、メイクさんに頼んで消してもらったんだぞ!もう俺…あんなのはごめんだからな」
最近この恋人は、しなやかな筋肉と抜群のスタイルを買われてモデルとしても引っ張りだこらしい。
本人も、何でも勉強だと言ってなんにでも挑戦しようという姿勢でいる。
力強く羽ばたく彼の成長は、とても微笑ましいことだけれど。
この身体が万人の目に晒されると思うと少し悔しい気もする。
「わかったよ。じゃあ…見えないところならいいんだよね?」