季節小説(ss)

□それぞれの聖夜(光×成編)
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「鍋にするか…それともシチューか……」


クリスマスの生放送の打ち合わせが終わって、帰り道でスーパーに寄る。

冷蔵庫に残っている材料を思い浮かべながら夕飯のメニューを考えた。

ブラブラとスーパーの精肉コーナーを歩くと特売のチラシが目に入る。今日は鶏の胸肉が安い。



「よし、じゃあ…今日はシチューだな」



パックの中の肉を見比べながら手を伸ばした時、隣の人と同じものを手にとってしまい慌てて手を引っ込めた。



「あ、すんません…」


「いえいえ、こちらこそ」




…聞き覚えのある声。

顔を上げると、長身長髪の着流し姿が目に入った。



「やっぱり…、成瀬さん。お買い物ですか?」



「あ、ああ…まぁな。あ、いいよ…いいってば!」



日織は俺が手にとっていた肉を、俺のカゴの中に入れた。



「どうぞ、遠慮なさらずに」



「そ、そうか?悪ぃな…。ところで、お前何持ってんだ?」



日織の手にはどこかで買い物してきたであろう大量の毛糸が袋に入ってぶら下がっていた。




「これですかい?そこの手芸屋で毛糸が安かったもんで」




「お前…その成りで手芸屋行くのか…」



「ええ。おまけしてくれましてね…。もうすぐクリスマスでしょう?」



「まさか…編み物するのか?」



日織が編み物をする姿を想像して眉をひそめた。




「ええ、実はこれかなり集中できるんですよ。台本とか覚えるのに手先動かしながらだと覚えも早いですし。
成瀬さんもやってみますか?」




「やっ…、やらねーよっ!じゃあな!」




俺は日織の横をすり抜けて足早にレジへと向かう。
そして、スーパーを出たところで手芸屋が目に入った。




「編み物…ねぇ」




手編みなんて、ガラじゃない。
でも、ワゴンの中にある毛糸は暖かそうで思わず手にとって見てみた。
お……この色、衛に似合いそうだな…。





「お兄さん、編み物初めて?」



いつの間にかすぐ傍にエプロンをつけた店員が立っていた。





「えっ、あ…!す、すいません!」



見られた恥ずかしさから慌てて毛糸を置いて立ち去ろうとする。




「ああ、待って待って。今ね、ちょうどウチ商品入れ替えでね。よかったらコレ持ってかない?」



そう言って、編み棒と『簡単!誰でもできる編み物』と書かれた本を渡される。



「え?でも、俺…」




「いいからいいから。お代はいらないよ。お兄さんイケメンだねぇ。はいオマケ」




そう言って、俺が手に取っていた毛糸まで次々に袋へ詰め込んでいく。




「今日はいい日だわねぇ。こんなイケメンが2人も来るなんて。はい、これ」



そうして、わけが判らないうちに毛糸の入った袋を渡されて家路に着く羽目になった。




  

「ふぅ…。ただいまっと」



誰もいない玄関へ腰を下ろしてブーツを脱ぐ。

買ってきた食材を冷蔵庫に入れて、夕飯の下ごしらえをする。

留守番電話のランプが赤く点滅しているのに気が付いて、エプロンを着けながら再生ボタンを押した。




『用件は、1件、です。』


袖を捲くりながら手を洗った。
日付と時間が再生された後、メッセージが再生される。

たぶん、衛だろう。
携帯電話が未だに使いこなせない衛はよく家の留守電にメッセージを残す。




『ああ、壮一郎くん?あのね、悪いんだけど僕今夜は仕事の準備で遅くなるから…先に夕飯済ませておいてくれるかな?
あ、あと今度のクリスマスだけど、僕壮一郎くんにあげたいものがあるからその日は…新しい、メッセージは、以上です』



ぷつりと再生は途中で打ち切られた。

わなわなと身体が震える。



「だから…っ!用件ははじめから纏めてから伝言しろって、いっつも言ってんだろーがっ!!」



無言の電話に対して包丁を突きつける。

…わかってる。これは単なる八つ当たりだ。

それでも、俺は遅く帰ってくるであろう衛の為にシチューをつくるべく、材料を並べイライラと包丁をまな板に打ちつけた。




 
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