OTHER

□甘いのください
1ページ/1ページ






世間はハッピーバレンタイン。

どこの店でもかわいらしくラッピングされたチョコレートたちが、
下手をするとスーパーの3分の1くらいを占めていたりする。

1日経てば全部半額になっちまうんだぞ、そんなもん。

あれでもない、これでもないと買い物をする女の子たちを
そんな目でしか見れない寂しいオッサンとはオレのことだ。

オレはにぎやかなコーナーを通りこして、いつものお菓子売り場で
いつも通り何の変哲もない板チョコを一枚手に取る。



自動ドアが開いた途端に吹きつける寒風に向かって歩きかながら、
台所をどうしようもないくらい汚してるであろう可愛い愛娘(違うか)のこととか、
その片付けをさせられる、女の子からチョコなんて1つももらえない
(姉ちゃんから、“チョコだったもの”はもらえるか)
眼鏡のことを考えた。

しょうがねえから2人とも、オレの少ないこずかいで買った板チョコをひとかけらだけやるよ。

ひとつだけだからな。

角を曲がれば万事屋まであと少しだ。

本当は大通りを行った方がスーパーには近いのだが、いつの間にかこの裏道を使うようになってしまった。

いつからだっけな、ってかアイツ今も仕事かな。

うわっ、ニコチンコのせいで余計に寒くなっちまったよ、ったく。

マフラーを巻き直してふと足元を見ると、黒いブーツが4つ。

ん? 4つ、っておかしくね??

オレいつから足4本になっちまったんだ!?



「おい」



あ〜あ、ホントに出てきやがんだ。

でも、今お前のこと考えてたなんて、絶対言ってやんねぇんだからな。

「遅いじゃねぇか。糖分持ってきたか?」

「何言ってんだ。調子乗るんじゃねえよ」

「へ〜、じゃあ後でくれるんだ?」

ほらほら、赤くなる。

でもまたすぐに意地の悪い目つきに戻り、そうだな後でじっくりなんて言うから
キモいぞおっさん、って言い返してやった。

そういうエスっぽいところ、嫌いじゃないんだぜ?

「でもやっぱ待ちきれねぇな」

ごめんな神楽、新八。

あと5分だけここにいるわ。

タバコ味のキスは不味いのだけれど。







また出かけんのめんどくせぇな、
って言ったらなぐられた。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ