リレー
□いち
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魔宮の廊下をつかつかと歩むひとりの男。
歳は二十代ほどだろうか、長身の背に異国の文化漂わせる服を纏っていた。
手にしているのは一冊の本。大判ではあるが厚みは少ない。
乱暴な足運びと口にしている煙草はどこか苛立たしげな雰囲気をつくりあげていた。
少なくともその表情は歓喜の類ではないだろう。
紫煙を吐き出しながら男はある部屋のドアを開くと、特別挨拶もなしに中にいた人物へと声を投げた。
「あいつ知らねぇか?」
「あいつ? って誰?」
男の態度は常時らしい。特に驚いた様子もなく中にいた青年は振り返ってくる。
男よりは年下だろう、けれど少年とは言い難い彼は、男を見た瞬間小さく眉を寄せた。
「……煙草」
「いなくなった」
「嫌いだって言ったのに」
「しかもこんなの残して行きやがった」
まるで話の噛み合っていない会話でも、二人は、特に男は頓着しない。手にしていた本を青年に差し出す。受けとった青年はそれに目をやりながら首を傾げた。
「なにこれ?」
男の舌打ち。
青年が顔を上げ、男を見やる。
「日記帳。あいつの。中見てみろ」
「ん、」
頷いた青年が表紙を開いてから数秒、また男に目をやり、ぽつり、呟いた。
「……僧侶? が、書いたの? これ?」
「な訳ねぇだろ俺がそんなの書くか? 馬鹿じゃねぇのか? 死ぬか? いや寧ろ死んでくれ頼む」
「いたたたた!」
男――僧侶は青年の髪を鷲掴みにして勢いよく引っ張り、青年はそちら側に頭を傾けながら僧侶の手を離そうとする。
むろん僧侶がおとなしく手を離す訳もない。
そんな攻防が十数秒続いたあと、ひとしきり苛立ちをぶつけてすっきりしたのか僧侶はやや乱暴に青年を解放した。
仕上げに、と言わんばかりに紫煙を青年の顔に吹きかけることも忘れない。
「あいつが――、勇者が書いたんだ絶対そうに決まってるよりによって人の名前勝手に使いやがって意味が分からねぇあのクソガキ今日こそ絞める」
憎々しげに吐き出された言葉は、両手で顔を覆ってうずくまる青年の耳には入っていなかった。