リレー
□いち
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適当に用意を済ませた悪魔が部屋を後にすると同時に僧侶は足を進める。
尚も引きずられている勇者は険しい顔を崩さない僧侶を見上げ、いささか不満げに口を尖らせた。
「ちぇー、鬼はまーちゃんだけなはずなのにいつの間に僧侶まで鬼になったの?」
「…………」
「さては僧侶ウサギさんなんだー。淋しがりなんだー。へへー」
「…………」
「わお僧侶が反抗期!」
相変わらず僧侶に捕まりながらも勇者はけたけたと楽しそうに笑う。
それが僧侶を苛立たせる原因になっているとは考えもせず、逆にそれが痛いほど分かっている悪魔は先程のように八つ当たりを受けないよう少し距離を開けて歩いていた。
ねー、と勇者に笑いかけられても悪魔には引き攣った苦笑いを返すことしかできない。
廊下をしばらく歩き、三人は魔宮のエントランスへ出る。
見計らったかのように人影は見当たらず、しんとした妙に冷たい空気が辺りを包んでいた。
けれど変わったところは特別目につかない。
ぴょん、と僧侶の手から離れた勇者は両手を口元に当ててメガホンを作り、
「まーちゃーん! 僕見つかっちゃったー!」
「…………」
「鬼交代しよー!」
「……僧侶、魔王ってほんとにここにいるの?」
いつもなら勇者が呼ばなくとも飛んでくるようなお人なのに。
言った悪魔はそれなりに心配そうな顔をしていたが、僧侶は新しい煙草に火を付けながら知るかとだけ呟いた。悪魔が溜息を飲み込む。
やがて、しばらく魔王を呼んでいた勇者が諦めたのか悪魔の手を引き、
「悪魔ー、まーちゃんが出てきてくれないー。あ、もしかして今度はまーちゃんが隠れる番なのかな」
「えーと、そうだなー、」
適当に頷く訳にもいかず、困ったように悪魔が言う。
当然と言うべきか、勇者の次の言葉は我関せずといった態度で煙草を吹かす僧侶へと向けられた。
「僧侶コノヤロー、まーちゃんをたぶらかしたな!」
僧侶が緩慢な動きで勇者へ視線をやる。
今は怒りより面倒くささの方が先へ出ているらしい。紫煙を吐きながら気怠げに言う。
「あ? なんで俺がんなことしなきゃなんねぇんだよ」
「出会いがないから! あったとしても僧侶なんかに誰もたなびかないから!」
はらはらと悪魔が二人を見やる中、やはりその言葉は僧侶の怒りに直結した。
普段から刻まれている眉間の皺が更に深くなる。
「は……、よく言ったなクソガキ……。埋葬法はどうしてほしい今なら聞いてやる」
「なんかね、人間歳とると短気になるらしいよ、おっさん」
ぎり、と煙草を噛み潰す音が妙に大きく響いた。
僧侶の手がぴくり、動いた瞬間、しかし悪魔が僧侶の腕を引く。
「そ、そ、僧侶、僧侶、ゆゆ勇者だからっ、駄目だっ、――いたっ」
「お前俺に口答えするつもりかよ?」
「滅相もないですごめんなさい!」
頭を庇いながら謝る悪魔。
僧侶は舌打ちを隠そうともせず、勇者に至っては舌を出して明らかに挑発をしている。
その紙に気付くのは、必然的に悪魔しかいなかった。
「…………」
なんだこれ、口の中で呟いて悪魔が床に落ちていたそれを拾い上げる。
真っ白で手触りの良いその紙には、赤く文字が書かれていた。