リレー

□いち
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\(^O^)/




ポチ――、軽快な音。そのことを誰かが訝しく思う前に、続いて爆発音のような何かが悪魔と勇者の耳朶を震わせていた。震動で地面が揺れる。
次に漂ってきたのは白煙と砂埃。焦げ臭いそれが瞬く間に周囲に立ち込めた。

震源地はおそらく僧侶がいただろう場所で、吹き飛ばされた、空間を仕切るドアはぼろぼろになりながらその辺りを転がっている。


一瞬の静寂。轟音の余韻が消えかかり、いったい何がと悪魔が口に出すより先にそれは悪魔へと飛び掛かってきた。


「あーくまー!」


固い何かと何かがぶつかる鈍い音。悪魔が口を開く暇さえもない。腹の上にそれを乗せた悪魔は、盛大に頭を床へとぶつけたまましばらくぴくりともせずに放心していた。


「悪魔!久しぶりだな。会いたかったぞ」

「う……、あ、はい……?」

「ウアハイ?なんだそれは。新しい遊びか?」


笑顔を見せて悪魔の上で跳ねるそれは勇者とそう変わらないだろう年頃の少女。艶やかな長い黒髪を頭の高い位置で二つに結(ゆ)んでいる。

私に会えてそんなに嬉しいか!
言いながら少女は更に悪魔へ体重をかける。

ぐえ、と変な音が悪魔の口から零れたが少女には気にしている気配すら見えない。相変わらずくすくすと楽しげに笑い声を奏でるだけだ。


ついに悪魔が少女の足を叩(はた)きだすがしかし、当たり前のように少女はそれを無視。同じく当たり前のように今度は勇者が口を開いた。


「もー、魔宮壊しちゃ駄目だよ。まーちゃんに怒られちゃうんだからー」

「大丈夫だ。後で悪魔が直す」

「なんで俺!」


勇者と少女の言葉は言外にこの少女が爆発とも云うべきあの騒動を引き起こした、と伝えていたが今の悪魔にそれが分かるはずもない。

ていうかその前に僧侶に殺される!
叫んだ悪魔の声は空しく二人に軽くあしらわれた。


「それにしても――、魔王が引っ掛かると思って作ったトラップだったのに悪魔が引っ掛かってくれるなんて嬉しい誤算だ。お前らはさっさと魔王を捜さないのか?早くしないとご褒美がなくなるぞ」


引っ掛かったのは悪魔ではなく僧侶で、しかしそれを咎めるよりも気になる言葉が少女の声には混じっていた。


「ご褒美?」


なにそれ、と口に出した悪魔の声はようやく少女の耳へ届いたようだ。少女はきょとんと不思議そうな顔を作り、


「悪魔たちのとこには来てないのか?」

「なにがー?」

「これ」


どこからともなく紙を取り出した少女。真っ白で手触りの良さそうなそれは悪魔と勇者の記憶に新しい。映えるのは赤い文字。特に何の感情もなく少女が読み上げる。


「謹啓――、まおぅはおへやをかえました!まきゅうの中にあるからさがしてみてね!一ばんに来た人にはごほうびもあるよ!分からなかったらまおぅに訊いてね!まおぅもまきゅうのどっかにいるからね!謹白、まおぅより――、あいつはもっと綺麗に文字が書けないのか?」


最後のものはただ少女の呟きである。しかしそれを聞いた悪魔は小さく嘆息をつきながら、


「俺らのとはえらい違いだな」


頭上から降ってきた僧侶の声に驚愕の表情をつくった。驚愕というより硬直の方が正しいかもしれない。どうやら悪魔の中で僧侶は恐ろしいもの、として扱われているようだ。


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