Short dream 銀魂

□もどかしさ
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緊張する瞬間というものが私にはある。














普段そんなに緊張する質ではないのだが、それでもやはり、この鼓動は止められない。














「お邪魔しまーす・・・」















だいぶ夜が更けた頃、私はまだ仕事をしている土方さんの部屋へお茶を持ってきた。
















「お茶、煎れたんです。ここに置いていいですか?」














近くの机を指す。












  


「あぁ」













土方さんはこっちなんて見てもいなかった。










うるさかった心臓が少し大人しくなる。














分かってはいるけれど。













けど、返事を返してくれたことがうれしかった。













そっと机の隅にお茶を置く。












土方さんは書類だけを見ていた。











ふと土方さんの前にある灰皿を見た。












仕事量が半端でないことを物語るような煙草の残骸を見て、ちょっと胸が痛んだ。
















「灰皿、片付けていいですか?」













灰皿に手を伸ばす。














それに気がついた土方さんは、顔を上げた。














「悪ィな。」












すると、小さな溜息が聞こえた。










たぶん無意識に。














「お疲れ様です。」













それを聞いて新しい灰皿を渡しながら言う。














すると、












「別に?疲れてなんていねーよ。」













と答える。












嘘。













こんなに疲れた顔や背中をして。












目の下に真っ黒な隈を作って。













それでもあなたは嘘をつくの?














「…煙草とかマヨネーズ、足りてます?夜食持ってきましょうか?」














「大丈夫だ」













眠そうな目を擦る。













「書類…手伝いましょうか?」















反射的にそう言ってしまった。











土方さんは一瞬驚いた顔をする。












言ってしまった後、しまった!という想いが頭を巡った。












一介の女中なんかが手伝える訳ないのに。














それでもふっと笑顔を見せて私を気遣ってくれる。













「いや、大丈夫だ。お前も早く帰って寝ろ。」














仲間の隊士にすら弱みをみせず頑張っているこの人だから。














ただの女中の私に頼る訳ないということくらい分かっていた。
















でも、言わずにはいられなかった。
















「でも今日は、見回り中にいざこざもあったようですし…疲労がたまっていらっしゃるのでは?」
















「…お前もう帰れ。」













 
「少しくらいなら私…」















「帰れって言ってんだろ!」














あぁ。













どうして私は女なのだろう?
















男だったら真選組に入隊して、少しでもこの人の負担を減らしてあげられたのに。















あぁ。












どうして私はこの人の特別な人、ではないのだろう?
 











恋人だったら一日中傍にいて、この人の疲れを癒してあげられるのに。















「…出すぎた真似、すみませんでした。」 
















「…」















「…失礼します。」















長く居すぎて邪魔をしてしまったかもしれない。















「……」
















あぁ。











なんで私は女中なのだろう…
















近づけないもどかしさが胸を締め付けた。
















「…おい。」
















「…え?」















「茶、美味かった。」














見るとすっかり空になった湯呑が一つ。














それを見て思わず顔が紅くなるのが分かった。
















「おかわり…持ってきてくれるか?」

















「・・・!はいっ!今すぐ!」














簡単には近づけない。












それはずっと分かっていた事。









だったら一歩ずつ近づけばいいだけのこと。













今はそのもどかしさが何故か心地よかった。













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