企画
□特別な日(コ哀)
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きらびやかな電飾に飾られたクリスマスツリーの下、白いコートに身を包んだ一人の少女がうつむき加減で立っていた。
少し大きめの青い紙袋を大事そうに持って冷たくなっている手に白い息を何度もかけている。
「悪りぃ哀!遅くなっちまって…」
数分後、赤い紙袋を揺らして肩で息をしながら彼女の元に駆け寄る男の子の姿があった。哀と呼ばれた少女は彼の声に一瞬安堵しした表情になったが、それはすぐに不機嫌そうな顔に変わっていた。
「…江戸川君。遅れてくるなら連絡して欲しいんだけど?」
そう怒りぎみの口調で彼を睨む。
「う゛っ…ホント悪かったって。」
江戸川と呼ばれた彼はというと、両手を合わせて必死に謝っている。
「…」
怒っていた顔がふっと緩み彼女からハア…とため息が出た。
それを許しと取った彼は、ガサゴソと袋の中に手を入れ何かを探し始めた。
「?」
それを不思議そうに見ている彼女の首に袋から取り出した物をふわりとかけた。
「えっ?これ…」
それは彼女の髪によく映える真っ赤なマフラーだった。
「ん。やっぱり哀には赤が似合うな。」
彼女の綺麗な髪を撫でながらニカッとした笑顔でそう言った。
「…ありがと…」
途端顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにそう呟くと、持っていた紙袋を彼の目の前に突き出した。
「俺に?」
「…いらないなら…別にいいわよ…」
彼女が手を引っ込めるより早く紙袋を受け取ると嬉しそうに中身を開け始めた。
中に入っていたのは暖かそうな青い手袋だった。
「ちょうど無かったんだよな。サンキュ。早速使わせてもらうぜ。」
「ええ。」
そう言って自分の片方だけに手袋をはめ始めた。
「ちょっと。両方共つけないと意味ないじゃない。」
「そうでもないぜ?」
言うやいなや、もう片方の手袋を彼女の手にはめてすでに冷たくなってしまっている白く綺麗な手を強く握るとジャケットのポケットに入れてしまった。
「!!!」
呆気に取られている彼女を尻目に、彼は上機嫌に歩き出してしまった。
「手袋ってこういう使い方もあるんだぜ〜♪」
してやったりの彼にため息をつきながらも少し頬を染めながら強く握り返した。
「さて。美味い物でも食いに行くか。哀はどこ行きたい?」
「そうね…イタリアンでもどうかしら。勿論、貴方の奢りだけど。」
「ゲッ!マジ?」
「当たり前よ。遅刻は遅刻なんだから。」
「…喜んで払わせていただきます…」
そんなやり取りを交わしながら色鮮やかなイルミネーションの中を二人で歩いていく。
いつの間にか空から白く舞い落ちる雪が幸せそうな二人を包んでいった。
−日常より少し特別で幸せなある夜のお話−
fin...