■調査資料T■

□衝動
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2.


ゴドーは起き抜け早々に、盛大な溜め息を転がした。

三十路も過ぎて久しいが、まさかこの年になって───

「…チッ」

夢精を致すとは思わなかった。
苦々しく舌打ちをして、もう何度目になるのか分からぬ淫らな夢の残滓の処理をすべく、寝具から降りる。

見事なまでに、ベチャベチャなのだ。

「…俺は…中2かい…」

虚しく己にツッコんで見たら、尚更虚しさが増して仕舞った。

哀愁漂う背中を丸め、一人風呂場で下着やら下衣やらシーツやらを水洗いしながら、反芻してしまったあの夢に───また一つ、溜め息が転がり落ちる。




あの日以来───




成歩堂と肌を重ねたあの夜以来、毎夜毎夜淫らな夢を見るようになってしまった。

それも、決まってあの夜の再現、若しくは更に過激な行為を、あの男と繰り広げるピンク映画さながらの内容だ。





そうして決まっての締め括りは───夢精、なのだから堪らない。

「冗談キツいぜコノヤロウ」

ガシガシと乱暴に布地を擦り合わせて洗いながら、悪態を吐き散らしたい気分になる。


例えば、熟れたあの瞳だとか。

例えば、甘ったるく舌っ足らずなあの声とか。

例えば、頼りなくもすがりついてくるあの生っ白い手、だとか。

ゴドー自身を銜え込んで離さないあの具合のよさ、だとか。

思い出すだけで昂ってくる己のイカれた精神ごと洗濯機に放り込んでしまいたい位だ。


一貫性のない行動に、推測をついつい巡らせてしまうのは、一種の職業病だろうか。

法曹界に身をおいて久しい故に、標的たる人物の行動や言動の逐一に神経を巡らせ、少しでもそこに矛盾がないかを考察する。



それは弁護士だろうが検事だろうが刑事だろうが、法の下で法を遵守せねばならぬ職務にある者の性であるかもしれないが───


───ちょいと度が過ぎてるぜ、あいつに対しては。

ゴドーとて、それぐらいの自覚はあった。

過去の一件や、筋違いの怨恨を差し引いたとしても、自分があの弁護士に向ける神経や記憶力は───尋常ではない。

挙げ句が───

───チヒロ。アンタ、カワイイ弟子とキョーダイんなっちゃったぜ…

下世話な言葉を脳裏に浮かべ、また嘆息を転がす羽目になった。
手際よく洗濯を終え、本日一杯目の闇のアロマを堪能するべく、キッチンに立つ。

ケトルを火にかけ、不意にあいた空白の時に、うっかりリビングに視線をやってしまったものだから、必然的に其処に置かれたチャコールグレーのサロンソファが目に入って仕舞った。



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