■調査資料T■

□後攻-side神乃木-
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それまではふざけて頭を小突いたり、わざと『ぼうや』と使ってみたりはしていたのだが、全くそこに他意はなく。唯々それだけだったのだが…。


その頃から、何とはなしに、面白く無くなってきたのだ。あの男の帰国の日が。

御剣が帰国する日は決まって成歩堂の事務所は休業の札がかかり、ある一人の為に、休業中の事務所に成歩堂は残り、只菅待つのだ。彼が、事務所を訪ねてくるのを。

それは偶然なのか、はたまた必然なのか。

奇しくも己が事務所を訪れる事になっている日に限って、その日が重なるのだ。

最初のうちはそれでも、突然言い渡された休日に、胸も体も休まり、心も晴れやかだった。



それがいつしか───面白くない、不愉快な休日に名称が変更されたのは───何度目の休暇であっただろうか。


そこからだった。
然り気無さを装った神乃木のモーションが始まったのは。

頭を小突くのを止めて、意外と触り心地の好い髪を撫でる事にした。

試しに『ボウヤ』を止めて、『コネコちゃん』と呼ぶ事にした。

野郎同士だと身嗜みを怠っていた自分を正し、成歩堂の事務所に訪れる前は必ずシャワーを浴びた。

トワレの類いも嗜んだ。

挙げ句に己の行き着けのカフェバーに連れて行き、婦警が話題にしていたシーサイドレストランに予約を入れて連れて行くようになった。

ディナーは意味を探られると不味いので、敢えて昼間のランチを選んだ。



幸いにも成歩堂は此方の思惑に気付かぬようで、呑気に何処でも着いてきた。

『こんなお洒落な店知ってるなんて…さすがゴドーさんですよね!!』

だとか。

『コーヒーって、意外に奥が深くて…ブラックの方が美味しいんだァ…。
今までビールとかグレープジュースとか…紅茶とかしか飲んだ事なかったんで、新たな発見て感じで、得した気分です』

だとか。

兎に角計画は順調に進んでいたのだ。



ビールやジュース以外に紅茶を嗜むようになったのは、言うまでもなく奴が心情に絡んでいるが故であろう。

そこにコーヒーを捩じ込んだ。

同じステイン色素で染まるなら、いっそカフェインたっぷりのコーヒーにヤられちまえば良いと北ソ笑んだ。

そう。順調に運んでいたのだ。

あの日、成歩堂の口から、その容姿から、あの男との情事の名残を見い出すまでは───






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