■調査資料T■

□後攻-side神乃木-
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「───は?」
「だ、か、ら。
『おー変父さん』を呑んだんですってば、昨日」
「…おいまるほどう」
「は?」
「アルコールの種類は何だ」
「え?何がですか?」
「だから。その『おー変父さん』とやらのアルコールの種類だよ」
「あぁ。えっと…ウイスキー、だったかな?
そこがまたすっごいバーだったんですよゴドーさん!!
あんなバー…バー?バーなのかな、あそこ」
「オレに聞かれてもな。流石に行った事のねぇ店は知らねぇぜ」

何を混乱しているのやら、成歩堂は自分の口にした単語に首をかしげている。が、そこでいつまでも足踏みしているわけにも行かぬので、神乃木は抜かりなく訂正してやることにした。

「その店には行った事ァねぇが、恐らくアンタが口にしたのは『おー変父さん』じゃなくて『オーヘントッシャン』のソーダ割り。ってとこだろーぜ」
「あ!それですそれ!!」


途端に目を輝かせる様などは、まるで幼児であると神乃木は思う。

まぁ、その幼さも彼の魅力の一つ、なのだが。

「それ、美味しかったんですよ、呑みやすくて!!
───ま、一人じゃあんな店、絶対いけないけど…」

照れたように笑う顔に、ジリ…とわずかに胸が焼ける。

今にも焦げ付いた臭いが鼻腔にまとわりつきそうで、神乃木は僅かに仮面の中の目を伏せる。

───やってくれるじゃねぇの、ヒラヒラ野郎。

ギリ、
僅かに奥歯を噛み締めてから、すぐさま余裕を装ったいつも通りの表情を保つ。

「───へぇ。じゃあコネコは一つ、大人の味を覚えたって訳だ」
「───っ」

一体今の神乃木の科白の何に反応を示したのか。
過剰とも言える程に赤面した成歩堂の顔を見て──────

ピン、と。
来てしまった。


───まさか、




古の頃より、人の悪い予感と言うものは、大概にして外れないと言うジンクスがある。

それより以前に、神乃木自身が確信してしまった。


───ヤりやがったなあのヤロウ…



よくよく見れば、御剣と成歩堂が飲みに行ったとされる日から既に数日が経過しているが、何だか何処と無く成歩堂が気怠げだ。


それより何より───


───満足そうな顔、してくれんじゃねぇの、コネコちゃんよォ。


此処まで満たされた表情を保持させる為には、それ相当の行為や確約がなければ───無理だ。


例えば遠慮がちに吐かれる吐息、だとか

時折伏し目がちに流される目、だとか

気紛れに湿される下唇の仄かな赤み、だとか───





そこかしこから表出されるものが示すものは───

『肉悦』『喜悦』『充足』『安穏』『恋情』

どれもこれもが、臍を噛みたい単語のオンパレードだ。カーニバルだ。


───イイだろうぜ。そっちがその気なら…


(こっちも遠慮なくやらせて貰うまで、だぜ、ヒラヒラ青二才)



斯くして天才検事と謳われた男は、最強の獅子を起こしてしまう結果となってしまったのだ。
牽制球がとんだデッドボールとなってしまったのだから───







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