■変装資料室■
□女子高生でGO!!
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成歩堂は考えていた。
それはもう、周囲が軽く引く程に、地面にめり込む勢いでもって考えていた。
それと言うのも彼の恋人でもありライバルでもあり親友でもある御剣怜侍のことである。
仕事人間を具現化したような人間である御剣は、相変わらず滅多に日本に帰国せず、愛してやまない成歩堂を泣く泣くほったらかし状態で目下司法を勉強中であるのだが。
そんな御剣に軽い危機感を持っている成歩堂は、このままではイケナイと真宵に相談を持ち掛けたのだ。
「アレだよなるほどくん。『マンネリ』は二人から緊張感を奪うんだよ。だから脱マンネリ!!はい!!そんな君に今なら無償でこれをプレゼント!!」
満面の笑みで手渡された紙袋の中身を確かめようとしたら物凄い剣幕で、『家に帰ってから!!』と念押しをされてしまったので、紙袋の中身を頻りに気にしつつ成歩堂は御剣のタワーマンションにやってきた。
何を隠そう今日は待ちに待った御剣帰国の日なのだ。
さぁてそれでは滅多にしない料理でも作って彼を待とうかと勝手に決め、成歩堂は最上階の御剣の部屋に昇り、渡されているスペアのキーを翳して中に入ると、一先ず料理に取り掛かり、それから念入りに腸内洗浄を行ったあと風呂に入り、内部をいい頃合いになるまで自分で解した。
すっかり隅々まで綺麗になってから上がると、真宵から渡された紙袋を開けて見て───目を剥いた。
内容物は。
黒のニーハイソックス。
ピンク色が眩しいティーバック。
どうみても制服であるプリーツのミニスカート。
真っ白のカッターシャツに、ミニスカが隠れてしまうほどにダボダボとした浅いグレーのセーター。
どう見てもこれは───
「女子高生?」
そうしてペラッペラのメモが一枚。
『コスプレは男のロマンだよ、ファイト〜、イッパツ!!なるほどくんv』
到底嫁入り前のうら若き少女の文言とは思えない言葉の数々だ。
そうしてもう一式はどう見ても───
チャコールグレーの今どきなタイトスーツにワイシャツ、ワイン色のネクタイに華奢な銀縁だて眼鏡。
この設定からすると、どう想像を巡らせて見ても───
『教師と生徒のイケナイ関係』的シチュエーションである。
「この場合…、どう考えても女子高生役は…ボク、だよな…?」
タラリといつもながらの大量の汗を滴らせながらガクリと肩を落とすものの、真宵の言うように『脱マンネリ』の為なら手段を選んではいけない気がしてきた。
意を決して女子高生セットを着々と身につけ、寝室の脇にある姿見にて己が身を確認すると───
足がキュッと引き締まって細く見える───元来成歩堂の足は細めで美脚であるのだが───黒のニーハイ。
太股までもチラリズムで見えてしまいそうなチェックのミニのプリーツスカート。
それがすっぽり隠れてしまいそうな程にダボダボと大きな薄いネズミ色のセーターは袖も長く、男である成歩堂が着てもタップリ余ってしまう程だ。
辛うじて控えめにちょこん、と指先が見える程度だ。
真っ白なシャツは第三ボタンまでを開けて胸元チラ見せテクをふんだんに使用して。
さぁこれで準備万端。
いつでも帰ってきやがれ状態である。
それから30分程して玄関の方でガチャリと音がして、部屋の主の帰宅を悟ると、素早く立ち上がり、玄関に向かった。
実に二ヶ月ぶりとなる恋人の姿に胸は高鳴り、靴を脱いで顔を上げた御剣が、一度普通に下を向きかけて思わず二度見して瞠目してしまう程に驚いているその反応に気をよくした。
「お帰り、御剣」
「……あ、あ、あぁ、すまない」
いったい何がすまない何だかさっぱり判然としないが、取り敢えず今は著しく混乱中なのだろうと言うことは知れた。
ニッコリと無垢な笑みを浮かべて出迎えてくれただけでも喜びもヒトシオであるのに──────その成歩堂がなんと、女子高生なのである。
スカートを穿き慣れない為に恥ずかしそうに膝頭を内側に擦り合わせて立つ姿などもう、言葉もぶっ飛ぶ程の絶景である。
危うく脆い鼻の毛細血管がぶちギレてしまいそうになり、ツンと鼻の奥が熱くなり、思わず掌で鼻と口許を覆って視線を泳がせてしまうものの、明らかに不自然である。
不思議そうに御剣を見ていた成歩堂は、途端に若干の不安色をその瞳に浮かべる。