■調査資料T■
□莫迦も休み休み
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目眩がしそうだ
転がした溜め息さえ酩酊している
そう感じたのは何も、杞憂ではない、筈だ
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莫迦も休み休み
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時刻はもう直に日付が変わろうかと謂う、午後11時49分。
白に近い銀髪の男は、本日何度目になるのやら分からぬ嘆息を、磨き抜かれ味わい高い大理石のカウンターに転がす。
「その辺にしとけまるほどう」
いっそ投げ遣りに謂い放つのを、どうか赦して欲しい。
何故なら今、そう正に今、銀髪の男───ゴドーは偏頭痛に悩まされているのだから。
頭痛の要因は、只今彼の隣席にてくだをまき、火照った頬にはひんやりと気持ちが良い大理石のカウンターとお友だちになっている、この男───成歩堂龍一。性別、男。xy。
「ぬわぁぁにいっちゃってるんすかぁ〜……ッウヒ、夜はぁぁ、まだまだぁ、こるぇかるぁ…」
最早何語か判別すら出来ぬ、する気も起きぬ。
───参ったぜこりゃ…
チラリと見遣ったトンガリ頭は、ふよふよ揺れながら、調子っぱずれな鼻歌を唄いながら空に近いグラスを傾ける。
呑みなれぬ飴色の液体に遣られたか。
安い居酒屋しか知らぬと謂うので、大人の味を味わわせて遣ろうと謂う親切心を出したばっかりに───裏目に出た。
何が悲しくて色気もへったくれもなく、ガタイのいい男を酔わせて潰さねばならんのか。
これがまだ、艶美なバディを誇る姫君なら役得だと思うだろうし、喉も鳴る。胸だって高鳴るかもしれない。
然し───
───こんなデケェコネコちゃん食う程、まだ腐っちゃいねぇぜ俺ぁ…
始末に悪い。
このままこの場に放置してサヨウナラしたい気持ちは山々だが、それではこの店に多大な迷惑をかける。
顔向けも出来まい。
となると導き出される今後の行動は───
───こんな図体のデケェ荷物をご自宅に宅配、てか?
嗚呼。考えるだに頭が痛む。もうギリギリと。
ゴドーは仕方なく、今にも黄泉の国に意識を飛ばして仕舞いそうなトンガリ弁護士───成歩堂龍一の肩を揺すった。
「おい、まるほどう。ネンネならお家のベッドでしな」
「んんぅ〜…ウヒッ」
───聞いちゃいねぇ…
絶望に目が霞みそうだと脳みその隅っこの方で考えつつ、ゴドーはもう一度、更に激しく揺すった。