ねぇ
お願い
暴いてよ
こんな窮屈な鎧なんて取り去って
その熱いの、ちょうだいよ
でなきゃ今すぐ
この口を塞いでよ
余計な言葉を、漏らしてしまわないように
────
衝動
────
枯れそうだ。
渇れそうだ。
涸れそうだ。
成歩堂は閑古鳥が鳴きっぱなしの事務所の所長室でへたばっていた。
ここ数日は真宵も倉院の里に隠っており、正真正銘独りぼっちを堪能させられている成歩堂は、半ば本気でミイラ化が進んでいた。
「あぁー…僕は…莫迦だ」
今更後悔したとて遅い。
まぁ、後に悔やむから後悔なのであって、先人はよく言ったものだなと如何でもいい事をムニャムニャ考えてしまう成歩堂は、ガシガシと尖った頭を掻いた。
余計な事を考えぬように仕事でもすれば良いのだが…。
若手弁護士やり手No.1と呼び声が高くなって久しいが、成歩堂は相変わらず冤罪の被告人の依頼しか受けてはいない。
真宵に貰った勾玉の所為で人の内奥の闇が見えてしまう為に明らかに有罪の被告人の弁護など受ける気にもなれなかった。
それも、ある。
それもあるのだが───
どうも成歩堂は、民事が性に合わぬと感じており、せっかく入る依頼の殆んどを、贅沢にも蹴っ飛ばしていた。
離婚だの親権だの名誉毀損だの寝盗っただの寝盗られただの。
そう言ったより人間的なものがどうにも苦手で、民事に手が出せない。
人間的なものが苦手な癖に何故刑事事件の、しかも殺人絡みの仕事ばかりを受けるのかと問われてしまうと───答えに窮するのだが。
詰まり。
成歩堂は暇なのだ。
おまけに、己自身に多大に後ろ暗い所がある為に、どうにも尻が落ち着かぬ。
否。
どちらかと謂うと尻が落ち着かぬと謂うよりは───尻は痛むのだが。
───僕は…
嘘を、ついてしまった。
弁護士として、ハッタリは常套手段ではあるのだが…。
───僕は…ゴドーさんに…
嘘を、吐いたのだ。
「ゲイ…だなんて」
ハハハ。
至極乾いた笑みが漏れる。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
成歩堂はゲイなどではない。
事実過去の恋人の性別を確認すれば、一目瞭然だ。
いまだ嘗て男性に欲情した事などないし、劣欲の矛先は必ずと言っても言いほど女性である。
否、あった、と表した方が良い。
ゴドーを知るまでは。
彼と出会うまでは。
千尋に淡い想いを抱いた事もあったし、利用されていたとしてもちなみを愛していた過去も事実だ。
成歩堂の過去の資料や法廷の映像を隈なくチェックしているゴドーの事だ、彼がノーマルであった事ぐらい、冷静な精神状態に戻れば明白になる。