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□ブラインドプレイ(兄忍)
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闇に生きる運命の者として、宵闇の帷は安堵出来るものだった。

闇に紛れて己の姿を隠すことが出来る。
それは、自身の心をも光から眩ますような、それでいて妙な解放感があるような不思議な感覚。

闇は決して裏切らぬ己の領域。
故に、自ずと気分が高揚するもの。

だと、思っていた。







「ん、ぅ…ふっ…アタル、殿っ…」

ゆっくりと味わうように、生温かい濡れた舌が薄い口唇を何度もなぞる。
甘く溶かされていくその感触に負け、ニンジャが僅かに唇を開くと、アタルの厚い舌はすかさず開かれた歯列の門に侵入を果たした。

「は、っ…ん、んぅっ…」

歯茎の裏をベロリと舐めなぞり、恐臆するように身を竦める愛らしい舌を強引に絡め取る。
咥内を強く吸い上げては互いの唾液の混じり合う感覚に興奮しているのか、その所作は次第に激しく濃密なものとなっていった。

アタルの執拗な求愛を受けてニンジャの本能は急速に高揚し、咥内に絡み付く舌の蠢きに応えるよう、何度も顎の角度を変えながら互いの唇を貪り尽くしていく。
鼻の頭に擦れるマスクのごわついた感触もすっかり慣れて気になることもない。
やがて、熱を上げる肌が彼の体温を渇望して堪らなくなり、ニンジャは縋るようにしてアタルの背中に腕を回した。

「っ…、あっ…アタル殿っ…」

すると、それを合図にせんとばかりにアタルはニンジャを抱きかかえながら背後の寝台に倒れ込んだ。
名残惜しそうに離れた唇が銀糸を紡ぎ、間もなくぷつりと切れる。

唇を吸われただけですっかり熱情を擡げてしまったニンジャは、己を組み敷く逞しい男を見つめ、興奮に息を荒げた。
呼吸を塞がれていたというのもあるだろう、血中に取り込む酸素の量を無理に正常に戻そうと働く器官のせいで、ニンジャは恥ずかしいくらいにハァハァと喉をおうとつさせていた。

だが、アタルの呼吸はそれ以上に激しく乱れていて。

「っ…は、はぁ…す、すまんニンジャ…ちょっと、待ってくれ…」

アタルは折角押し倒したニンジャの上から起き上がると、床に手をついて深呼吸を繰り返す。

「アタル殿…どうかしたでござるか…?」

「あ、いや…ちょっと息苦しくてな…呼吸を整えさせてくれ。お前が可愛いから、息をするのも忘れていたよ…」

「っ…、そ、そういう余計なことは言わなくていいでござる…っ、…アタル殿はただでさえマスクで呼吸がしづらいのだから…」

全く身の程を弁えない、と呆れながらも心配そうに顔を覗き込むと、不意打ちでチュッと頬にキスをされる。
悪戯が成功した子供のように目を細めて笑うアタルに、ニンジャは返す言葉もなく無表情で侮蔑の視線を投げつけた。

「そんな顔しないでくれ、冗談なんだから…あと何か言われるよりキツいから黙るのはやめてくれないか」

「心配して損したでござる」

黙るな、と言うから今度は感情の篭らない短い片言と共に、少しだけ素肌の覗く頬をペシ、と叩く。

本気なのか冗談なのか、僅かに嬉々とした表情を見せるアタルに最早これ以上付き合いきれない、と熱っぽい溜め息を吐き、ニンジャはもう一度その精悍な胸に潜り込む。
昂りつつある熱を秘めた分厚い胸板の硬い感触は心地好く、愛しくて、闇に溶ける烏色の眸は睫毛の奥で熱情に震えた。

「アタル殿…」

正直なところ早く続きがしたくて、仕草と表情で其れを訴えると、アタルはニンジャの顎を持ち上げ、濡れた唇に再び口付ける。
普段はマスクの下にあって日に当たらないためか、アタルの唇は存外柔らかく、吸い付いてくるような感触があった。

「っ…、んっ…」

触れ合うだけのキスが物足りなくて、僅かに唇を開いて誘うが、しかしながら先のように熱い舌先が歯列をなぞることはない。
明らかにいつもと様子の違うことを訝しんだニンジャは、自ら唇を離すと、今一度アタルの顔を覗き込んだ。

「アタル殿?なんか今日、おかしいでござるよ」

「あ、あぁ…いや、前々から思っていたんだがな…こういうときにマスクをしたままだと息が苦しいんだよ」

己を見つめるニンジャの視線が心配から不信に変わっていることに気付いたのか、アタルは少し躊躇しながらもそう話すと、不安を解いてやるようにニンジャを抱き寄せた。

確かに、口から上が覆われている状態で唇を塞げば自然と呼吸が難しくなる。
先刻の苦しそうな仕草も割と本気だったのかもしれない。
今まで何度も褥を共にしていながらアタル本人が平静を装っていたためか全く気付かなかったことに、ニンジャは改めてハッとした。
しかし、王族の掟がある以上はどうにもならないことだ。

「仕方ないでござる…マスクを取るわけにもいかぬのだから…」
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