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□始まりの約束(兄忍/10月度拍手文)
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王位争奪戦が終わり、暫くして血盟軍も解散することとなった。



別れの日、ニンジャは鬱屈した想いを抱えたまま、そのときを迎えた。

それぞれの国へと帰っていくブロッケンJr.、バッファローマンを見送り、空港をあとにする。
アシュラマンも魔界に戻るとは言っていたが二人の見送りには姿を見せなかった。

ニンジャは、少し先を歩く、最後の一人の背中をじっと見つめながら重い足を引き摺る。

この男とは、別れたくなかった。

500億光年も離れた、遠い星に帰るのだ。
ここで別れてしまったら、もう二度と会えない気がした。


こんなに、こんなにも強く想う気持ちが、心の中で燻って
切なくて仕方がないというのに。

血盟軍として共に過ごすうちに、いつのまにか愛しく感じるようになっていた。
愛など愚かで不要なものだと信じていたのに、彼に出逢ってからすっかり変わってしまったのだ。

彼の為なら、正義超人として生きていけると思った。


その想いが、今終わろうとしている。



やりきれない気持ちのままでただ、その大きな背中を見つめていると、不意にソルジャーが振り返った。

嫌な予感が、チクリと胸を刺す。

「じゃあ、私はここで。ありがとう、ニンジャ」

眩しいほどに澄んだ蒼い眸が、細く笑う。


――嫌だ、別れたくない。


優しく微笑したソルジャーは、短い言葉だけ残してまた前に向き直ると、ゆっくりと歩き出す。

彼の最後の挨拶に絶望を覚えて、何も言えなかった。

離れたくないのに、こんなにも愛しいのに、その想いを少しも伝えられないまま、もう二度と――。

そう思った次の瞬間、ニンジャは弾かれたように駆け出していた。
衝動に突き動かされた身体が勝手に動いて、追い付いたソルジャーの服をギュッと強く掴む。

驚いて振り返ったソルジャーに思い切り抱きつくと、もうそのあとはどうしたらいいか分からず、自然と込み上げる嗚咽を殺すのに必死で言葉も出せなかった。

――離れたくない、傍にいたい、どこへでもいいから連れて行って欲しい――貴方のことが好きだ



伝えたいことはたくさんあったがひとつとして形にならない。

「ニンジャ…」

小さく名前を呟く声が落ちてくるのと同時に、逞しい腕に抱き締め返される。
反射的にソルジャーの眸を追った視界は、既に滲んでいた。

それを見てソルジャーは困ったように苦笑すると、耳元でそっと、囁いた。


「迎えに来る。必ずだ。だからそれまで、待っていてくれるか」


「っ……!!」


そう告げられたと同時に、抱き締めてくる腕の力が強くなる。

信じられなかった。
まるで、言い出せないでいた気持ちが抱き締め合った腕から全て伝わってしまったような。

ついに溢れだしてしまった涙が次から次へと頬を伝い、二人の間に落ちる。
確かめるようにポンと頭を叩くソルジャーの目を見つめ、何度も何度も頷くと、力強くも優しい眦が嬉しそうに下がった。


「…ソルジャー……ソルジャー!」

「…アタル、だ」

「っ…、…アタル…殿……」



名前を呼ぶので精一杯のまま、やがてソルジャーはニンジャから離れた。
最後に、マスク越しながら額に口付けられ、胸が高鳴る。





背を向けて歩き出したソルジャーを、姿が見えなくなるまで見送りながら、ニンジャは漸く落ち着きを取り戻した唇を開いて呟いた。

「いつまでも、待ってるでござる……アタル殿」




その心に先までの鬱屈した思いはもう無かった。
この別れが新たな始まりに過ぎないことを、あの強い腕の温もりが教えてくれていたから。


――fin――

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