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□霧の約束(ウォケビ/10月度拍手文)
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慈しむ、という感情を初めて知ったのはそのときだっただろう。


産まれたばかりの頃はあまりにも小さくて柔らかくて、指先で触れることにすら戸惑っていた。

子供の扱い方など知る筈もない。
どう接すればいいのか分からないが故に、ロビンに会いにいくたび顔を合わさなければならないことが苦痛なときすらあった。

それが変わったのは、いつも完璧な子供として誂えられたあの子の本当の心が、垣間見えた瞬間だった。
とウォーズマンは記憶している。


ロビンの厳しい教育がまだ年端もいかない幼子の肩に、必要以上に圧し掛かっていることを感じたとき、あまりに不憫で思わず抱き締めてやった。
その刹那、表情を宿さない鉄仮面の奥の小さな唇が漏らした一言が今でも、機械の心の中で錆びることなく生きている。


「僕、ウォーズさんの方が好きだよ…ウォーズさんが僕の師匠ならいいのに…」


その震える声に、血が熱くなった。
厳しい父親に隠れ、自分にしか見せることのない、弱音。

途端にケビンが可愛くて、愛しくて堪らなくなった。

まだ小さい子供の、二極的にしか物事を判断出来ない上での感情だなどと冷静に理解することも出来ず、ずっとロビンの手にあった彼が自分のものになった気さえしていた。

否、ロビンから奪ってでも自分のものにしてやりたいという気持ちがあったのだろう。

思えば、危険な庇護欲であり独占欲だ。
かつてロビンに抱いた想いとはまた別の、もっと熱くて壊れてしまいそうなほどの、
果たしてそれが愛情だったのかは分からない。

だが、それが叶わずともケビンがつらいときは自分の手で護ってやろうと、そんな強い思いがあったのだけは確かだった。


だからこそ、やがてその関係に終りがもたらされ、彼にもう会えないと知ったときは内心でひどくロビンを責めたものだ。


ただ、いつだったか今にも泣き出しそうだった彼を慰めるべく結んだ小さな約束が、本当は自分の為だったのだと気付かされたのもそのときだった。


「ケビンが大きくなったら迎えに来るよ」

「本当に!?ウォーズさんの弟子になってもいいの!?」

「本当だよ。だから今はちゃんとダディの言うことを聞いて、一人前の超人になるんだ」




あの日、冷たい鉄仮面の奥でキラキラと輝いた無垢な眸は、今どんな色をしているのか。




――ケビン、お前は今も


「…オレにコーチを依頼しな」


あの約束を覚えているのだろうか

「強くなるぜ。オレに習えば 今よりさらに…」


迎えに来たよ、俺のケビン――



――fin――

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