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□不堪自叙(兄忍)
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――お前はいつも冷たいな



心臓を貫いた言葉の剱が、今も突き刺さったまま、ニンジャを深く苦しめていた。

丁度、窓の外で沈みゆく夕陽の色が空に滲んで広がっていくように、刺し貫かれた胸を後悔と悲しみがじわじわと侵食する。
刹那の落日を見つめながら、ニンジャはそれまでのことを思い返していた。
己と、つい先刻まで傍らにいた男のことを。





「ニンジャ、少しこっちで話さないか」

夕餉の支度をしていると、部屋の奥からアタルの声が遠めに響いた。
仕事が一段落着くと、次にやって来るのはプライベートな時間だ。
気持ちを切り替える間もなく台所に立つニンジャの頭の中には既に今晩の献立のパターンが張り巡らされており、無駄なことに思考を割いている余裕などない。

いつものことではあるものの、空気というか此方の都合を読まないアタルの所作に眉をひそめながらも顔を出してやると、何故か嬉しそうにソファの空いた傍らを叩いて暗に「お前も座れ」と告げてくる。

「アタル殿…拙者は今忙しいのだ」

ソファにどっかりとその逞しい身体を預け、至極寛いだ視線を向けてくるアタルの態度が、妙な苛立ちを生じさせる。
急を要する用件なのかと訊ねればひどく不鮮明に言葉を濁してくるため、相手にしないことにした。

何も、話をしたくないわけではない。
心の奥底を露呈すれば寧ろ、少しでも多くの時間をアタルと過ごしたいくらいだ。
だが今は手空きではないのだから、弁えを知らない子供のようなことをニンジャはしたくなかった。

否、しようとしてもどうすれば良いか分からないのが本音だ。
好きだから傍にいたい、それを上手に伝える術が分からない。


「なぁニンジャ、少しくらい…」

「っ…、アタル殿っ…」

再び台所に向かい包丁を構えると、今度はすぐ真後ろで名前を呼ばれた。
突然背後から抱き締められてしまい、不意の仕打ちに心臓が緊張で打ち震える。

「少しだけだ。お前とゆっくり話がしたいんだよ」

「っ…、そんなの後でいくらでも時間を作るでござる…」

筋肉の引き締まった逞しい腕が、まるで拘束するように身体を捕えて離さない。
何の為か僅かに高めの体温が着衣越しに伝わると、鼓動はさらに高鳴って、全身から力を奪っていく。
震える指先から刃物を手放すと、ニンジャは唇を噛みしめながらアタルの大きな手を取った。

「アタル殿、今は…」
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